Disc Review

The Second Album / Borderline (Capitol/Toshiba EMI)

ザ・セカンド・アルバム/ボーダーライン

だいぶ前から気になっていたんだけど。愛と平和の小包……だっけ? ジョン・レノン・セーター。いいのか、ヨーコ。例のテロの直後に新聞広告出したり、日本でトリビュート・ライブ企画したり。まあ、未亡人の正当な権利っちゃ権利なんだろうけど。ジョンで商売する感じって、これ、ジョンの熱心なファンの人とかってどう思ってるんだろう。ジョンの熱心なファンの人はヨーコ込みでファンなのかな。それなら気にならないかもしれないけど。

ぼくは、なーんか気になる。ぼくがいちばん好きなジョンのアルバムは、以前もここで書いたように、いちばんヨーコ色が薄い『ロックンロール』だったりするもんで(笑)。その程度のファンの目から見ると、例の「イマジン」をめぐるごたごたも含めて、なんか近ごろジョン・レノンというアーティストが体現していた様々な要素のうち、ほんの一側面しか強調されていないような気がして。それはかなりの割合、ヨーコの無意識裏の情報操作だったりもするような気がして。

これまた以前このページで書いたことなので、繰り返しになるけれど。ジョン・レノンって、確かに愛と平和を歌った人でもあるけれど、それ以前にすんげえかっこいいロックンローラーだったはず。その部分が時とともにどんどん削ぎ落とされていってしまっているような……。もちろんぼくはオノ・ヨーコという人のことを直接知っているわけでもないし、彼女がこれまでリリースしてきたアルバムを通して推測するしかないわけだけど。機会があるごとに書いたり発言したりしてきたように、あの人、たぶんロックンロール、好きじゃないとぼくは思うのだ。ファッツ・ドミノとか、ロージー&ジ・オリジナルズとか、バディ・ホリーとか、フレディ・キャノンとか、わかってないでしょ、たぶん。で、もしわかってないとしたら、そういう人がジョン・レノンの歴史を後世に再構築しようとすると、愛と平和のジョン・レノン・セーターになっちゃうのかな、と。そんなことを思ったりもする今日このごろ。

誰でもいいんだけど、ひとりのアーティストがいて。その人の魅力を他の人が表現しようとする場合、その紹介者の音楽への愛情とか知識とかセンスとか、実はそういうものにかなり左右されちゃったりする。わりと近年の例で、ぼくがひどくいらついたのはベックとか。あの人の音楽の魅力を語ろうとしたら、彼のカントリー音楽に関する素養とか視点とかを無視することはできないはずなのに、日本の大方のロック雑誌とかライナーとかで目にするベックの記事にはそんなことひとつも触れられていなくて。でも、彼は自分のアルバムではもちろん、グラム・パーソンズのトリビュート盤とかでも素晴らしくカントリー・テイストに満ちた歌声を聞かせていたり、ウィリー・ネルソンとも共演していたり、最近ではハンク・ウィリアムスのトリビュート盤でこれまた深い洞察に満ちたカヴァーを展開していたりするのに。無視だもんなぁ、ほとんど。これって、たぶんベックのことを書く音楽評論家とかライターが単にカントリーを知らないからでしょ。情けない。

もちろん、こういうことは自戒を込めて書いているわけですが。ポップ・ミュージックは日々勉強ですよ。終わりがないですよ、この道は。つーわけで、この前フリとは何の関係もなく、今回のピック・アルバムはボーダーラインの幻のセカンド・アルバム。雑誌に書いた紹介記事を以下に引用しておきます。

ビーチ・ボーイズの『スマイル』あたりを頂点に、ロック・ヒストリーにはたくさんのお蔵入り未発表アルバムがあって。音楽ファンにとっては気になるところだ。で、ブート屋さんのお世話になったりしながら音源を入手して、もしこのアルバムがちゃんと出ていたらこのアーティストの歴史は、あるいはロック/ポップ・ミュージックの歴史は、どう変わっていたんだろう…とか、いろいろ夢想したり。これが楽しい。だから、それら未発表アルバム群が時を経て公式に発掘/リリースされるとなれば最高。最近でも、たとえばミレニウムとか、トッド・ラングレンとか、バッド・フィンガーとか、ロイ・ウッドとか、カリフォルニア・ミュージックとか、その辺のお蔵入りアルバムが公式リリースされたし。他にもバッファロー・スプリングフィールドのボックス・セットには幻のセカンド『スタンピード』収録予定の音源もいろいろ含まれていたし。この種の音源が世に出るたび、本当にわくわくしてしまって。

で、今回も紹介しましょう。ボーダーラインが73年に録音し、アルバム・ジャケットも含めてまさに完成に至っていたにもかかわらず、所属レコード会社の人事問題に巻き込まれる形でお蔵入りしてしまっていた幻のセカンド・アルバム『スウィート・ドリームス・アゲイン~ザ・セカンド・アルバム』。驚愕の世界初発掘/初リリースだ。例のザ・バンドのリマスター&ボーナス満載CD群のマスターテープを全部探し出した米キャピトルの敏腕女性スタッフ、シェリル・ポウェルスキが倉庫をあさりまくり、結局オリジナル・マスターテープは見つからなかったものの、トラックダウンずみの音源を刻み込んだ抜群に状態のいいアセテート・ディスクを発見。あの色あせぬ73年のファースト・アルバム『スウィート・ドリームス&クワイエット・デザイアズ』で聞くことができた、深く、穏やかなボーダーライン・ワールドの“その次”を、とうとうぼくたちは耳にすることができることになった。

ぼくはこの幻のセカンドの存在をずっと知らなかったのだが、日本でも当時からマニアックにアメリカン・ロックを追い続けていた人たちの間ではボーダーラインに未発表アルバムがあることは話題になっていたのだとか。ヴァン・モリソンがプロデュースしているらしいとか、ボブ・ディランが参加しているらしいとか、さすがウッドストックを拠点に活動していたグループらしい噂が飛び交っていたようだが。実際、残念ながらそれらの噂は事実ではなかったものの、ボーダーラインの3人のメンバーに加えて、エイモス・ギャレット、クリス・パーカー、ウィル・リー、デイヴィッド・サンボーン、ブレッカー兄弟ら名手が好サポートを聞かせる素晴らしく豊潤な一枚に仕上がっている。

まあ、当時リリース日まで決定しながら結局リリースされなかったのはレコード会社の問題。出来が悪くてお蔵入りしたのではないだけに、素晴らしい仕上がりだ。ほのぼのフォーク/ブルーグラス味を発揮するジム・ルーニー、カントリー~カントリー・ロック色強いヴォーカルが魅力のデイヴィッド・ガーシェン、そしてジャズっぽさ、ブルースっぽさも加味した幅広い音楽性を聞かせるジョン・ガーシェン。3人のメンバーの個性が理想的に絡み合った一枚。思えば、ぼくがこういう未発表アルバムをめぐる興奮を初めて感じたのは75年、ボブ・ディラン&ザ・バンドの『地下室(ベースメント・テープス)』がリリースされたときだったと思う。これの場合、もともとはアルバムとしてのリリースを目論んで録音された音源ではないので、ちょっと事情が違うものの、ボーダーラインの幻のセカンドを聞きながら、やはり思い出したのは『地下室』のことだった。『地下室』もディランがウッドストック在住だった時期の録音で。ボーダーラインの盤ともども、ウッドストック生まれの音楽というのは、なにやら時代を超えて響くルーツィな魅力を放っているのだなということをまたまた再確認した。

for Music Magazine (revised)

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