Disc Review

It Oughta Be Easy / Bob Lind (Ace Records)

イット・オウタ・ビー・イージー/ボブ・リンド

ボブ・リンドの「夢の蝶々(Elusive Butterfly)」って曲を初めて聞いたのは、オリジナル・リリースから10年くらいたった1970年代の半ばだった。

FENの最強オールディーズ・プログラム『ジム・ピューター・ショー』で。AM放送ではあったけれど、まだまだ再発音源などを手に入れるのも大変だった時期ということもあり、毎回全曲をDJ入りでカセットにエアチェックしていて。そんな中、出くわしたのが「夢の蝶々」。この邦題のことも当時は知らなかったから、ぼくの頭の中ではあくまでも「エルーシヴ・バタフライ」だったのだけれど。

何度も聞いたなー。1965年にこんな浮遊感に満ちた名曲があったんだー…と、しびれた。ボブ・リンドのことは先日出版した『60年代アメリカン・ロック』ってガイドブックにもちらっと書いたので、その文章、一部引用しておきますね。

ボルティモア出身のボブ・リンド。W.B.イェーツの詩に触発されて書いたという「夢の蝶々(Elusive Butterfly)」が65年、リバティ傘下のワールド・パシフィック・レコードのトップ、リチャード・ボックの耳にとまり、そこから当時リバティのA&Rだったレニー・ワロンカーを通してジャック・ニッチの下へ。ドリーミーなコード進行を伴ったリンドの楽曲をハル・ブレイン、キャロル・ケイらレッキング・クルーの面々がバックアップ。ニッチがストリングスなどでさらなる浮遊感を付加し名曲が完成した。当時のポップ・シーンではあまり先例のなかったハイセンスな仕上がりに不安を抱いたレコード会社側はこれをシングルB面に収めて発売したが、ラジオDJたちはこちらを支持。翌66年、全米5位まで上昇した。

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と、そんなリンドさん。ジャック・ニッチが当時のライナーノーツで“彼の詞には嘘がひとつもない”と書いた通り、ソングライターとしても大いに注目されて。シェール、グレン・キャンベル、アレサ・フランクリン、ナンシー・シナトラ、フォー・トップス、タートルズなど、いろいろなアーティストが彼の曲をカヴァーしたり。

にもかかわらず、ドラッグとアルコールの問題などもあって1970年代に入ると失速。しばらく音楽の世界から身を引いて戯曲を書いたりしていた時期も。ちなみに、作家のチャールズ・ブコウスキーと親しい友だちだったそうで、ブコウスキーが創作したディンキー・サマーズってキャラはリンドをモデルにしたものだったのだとか。

で、2004年。友人のひとり、アーロ・ガスリーの後押しを受けつつ音楽界に復帰。2009年にはドキュメンタリーDVDとかも出て。2012年、スポンジトーンズのジェイミー・フーヴァーのプロデュースの下、ついに41年ぶりの新作アルバム『ファインディング・ユー・アゲイン』をリリースして本格復帰を果たしたのでありました。

以降、ゆったりしたペースでアルバム・リリースを重ねて。このほど、御年83にして復帰後4作目となるニュー・アルバム『イット・オウタ・ビー・イージー』がリリースされた、と。そういうわけです。今回もプロデュースはフーヴァー。

今回も美しいメロディと機知に富んだ歌詞、ソングライターとしてのリンドの本領がじんわり炸裂した仕上がり。サラ・マクラフランの「エディア」のカヴァー以外、すべてリンドの作品で。「ソフィーズ・ララバイ」って曲が特に沁みたなー。友人夫婦が養子を迎えるために中国へ渡った際、一人っ子政策によって男児ばかりが優先されている現実を目の当たりにしながら、ひとりのかわいい女の子を救うために養子に迎えたエピソードに触発されて、その女の子のために書いたらしい子守歌。

他の曲もリンドならではのシニカルな観察眼に貫かれた1枚。若いときに書いてお蔵入りさせていたという「ホエン・ラヴ・イズ・ニュー」みたいな曲も交えつつ、83歳の“今”をさらりと綴っていて。学ぶところ、多し。

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