Disc Review

World's Gone Wrong / Lucinda Williams (Highway 20/Thirty Tigers)

ワールズ・ゴーン・ロング/ルシンダ・ウィリアムズ

象徴的にはミネアポリスで、広くは日本も含めた世界中で巻き起こっている、なんというか、もう信じられないというか、受け止めきれないというか、とんでもない状況に、最悪のどんづまり感を覚えるばかりの日々。ほんと、これからどうなっていくんだろう。

そんな気分で聞いたこともあって、より、ずどんと心のど真ん中を撃ち抜かれた感じのルシンダ姐さんの新作。ノッケから姐さんが今抱いているのであろう“のっぴきならなさ”が炸裂していて。やばい。

アルバム表題曲「ザ・ワールズ・ゴーン・ロング」は、カー・ディーラーの夫と看護士の妻という、ごく普通の夫婦の日常を描きながら、今の米国の惨状を浮き彫りにしていく。車の売り上げ不振、生活苦、ネット上に二極化しながら洪水のように溢れる情報…。様々な苦悩と狂気に追い詰められながら、日々じわじわと“削られて”いく彼らの痛みをルシンダさんが持ち前のワイルドなしゃがれ声で綴る。ブラック・カントリーのブリトニー・スペンサーの客演も見事。

“She tries hard to ignore the news.”、つまり、妻は情報を無視したいのに…という描写がなんとも身につまされる。世界が壊れていくニュースをこれでもかと見せつけられながら、こっちの心のほうが先に壊れてしまいそう、みたいな。でも、そんなとき、そのやりきれなさをこうやって歌に託して爆発させてくれる姐さんの在り方がなんとも頼もしい。

本作はルシンダ・ウィリアムスにとって16作目。脳梗塞から復帰して初のオリジナル・アルバム『ストーリーズ・フロム・ア・ロックンロール・ハート』に続くオリジナル作。

プロデュースは今回も、夫トム・オーヴァービーと、長年の盟友レイ・ケネディ。全10曲中、メイヴィス・ステイプルズをゲスト・ヴォーカルに招いた「ソー・マッチ・トラブル・イン・ザ・ワールド」のみボブ・マーリーのカヴァーで、残る9曲がオリジナル。今のアメリカで、消耗するほどの怒りを抱え、それでも踏ん張る場所を探す者たちの物語だ。

「パンチライン」って曲も強力。ざっくりとした歌詞の内容としては、世の中に怒りと混乱が広がり、人々は答えを探しているのに、どこへ向かえばいいのか分からない。悪意や分断がガンのように増殖。天を仰いで神に救いを求めても、一方で二枚舌の為政者が迷える人々をだまし、人々の恐怖心を利用している現実を目の当たりにするしかなくて…みたいな? “これは設計どおりだと言う人たちがいる/本当にそうなの?/ 神様のやり方は謎/神様はオチ(punchline)を忘れてしまったの?”というフレーズに、なんともやりきれない思いが漂う。

ブリトニー・スペンサー、メイヴィス・ステイプルズの他、ラスト・ナンバー「ウィーヴ・カム・トゥー・ファー・トゥ・ターン・アラウンド」にはノラ・ジョーンズがコーラスとピアノで客演している。

この「ウィーヴ・カム・トゥー・ファー・トゥ・ターン・アラウンド」って曲は、第一次トランプ政権のとき、2018年にチャールズ・ロイドとの共演アルバム『ヴァニッシュト・ガーデンズ』で発表した感動的なナンバーで。その歌詞の一部、地名とかをちょこっと変えて、第二次トランプ政権のただ中に改めて蘇らせたわけだ。

“私たちはこの試練に疲れ果て/苦難にもううんざりしている/けれど ここまで来たのだ/もう引き返せない”とか“私たちはここにいる/目撃者として/この恐るべき病を見届けるために/私たちはここまで来たのだ/もう引き返せない”とか、祈りと怒りが、穏やかで、どこか聖なる響きすらたたえたカントリー・ワルツに乗って交錯する。去年の11月に先行リリースされて以来、ルシンダとノラの声の連帯に泣かされっぱなしだ。

みんなで踏ん張らないとね。

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