
エイス/マディソン・カニンガム
パンチ・ブラザーズのクリス・シーリーが司会していた『ライヴ・フロム・ヒア』で見てから、思いきりハマったマディソン・カニンガム。
去年、アンドリュー・バードとのコラボで『バッキンガム・ニックス』をまるごとカヴァーしたアルバム『カニンガム・バード』を出していたけど、単独名義では2022年の『リヴィーラー』以来となる新作『エイス』が出ました。なんでも去年あたり、私生活でいろいろあったみたいで、曲作り面でも大きなスランプを経験したらしいのだけれど。そこから立ち直っての1枚。
8月ごろ、確か『Paste』誌かなんかのプレイリストで本作からの先行リリース曲「マイ・フル・ネーム」を聞いて。“あなたが私をフルネームで呼ぶのが好き/あなたがいつも思いを話してくれるところも/針が静脈を見つけたとき/あなたのささやかな言葉がみんな私のものになる”みたいな歌い出しから、まあ、ぼくの英語力では何を歌っているのか、つぶさにはわからないままだけど、一気に引き込まれて。
その後、先月、フリート・フォクシーズのロビン・ペックノールドをデュエット・パートナーに迎えた「ウェイク」って曲も先行リリースされて。これが初期ジョニ・ミッチェルを思わせる、たぶんオープン・チューニングを使っていると思われるアコースティック・ギターをバックに歌われる静謐なナンバーで。
初めの方に“atom bomb”なんて言葉が出てきたりするもんで、一瞬“んっ?”とはなったものの、聞いているうちに、さまざまな過去の惨劇を“私”と“あなた”の思いのすれ違いのようなものに折り重ねながら、他人のイメージの中で壊れそうになっている自分を見つめている様子が伝わってきて。じわじわきました。
ということで、リリースを楽しみにしていた新作。この人、ギター持って歌っているイメージが強いのだけれど、今回はピアノの存在感のほうが強く。そこにストリングス、木管なども巧みに絡まさたふくよかなアンサンブルが素晴らしい。全体的に失恋をめぐる思いが様々な切り口から綴られている感じではあるのだけれど。
重くたれこめた憂鬱な空気感の中、しかし、ふとした瞬間にピュアな陽光が差し込むみたいな、そんな行ったり来たりがなんとも魅力的な1枚です。