Disc Review

Saving Grace / Robert Plant (Nonesuch Records)

セイヴィング・グレイス/ロバート・プラント

もともとルーツ音楽志向が強かったロバート・プラントだけれど。ご存じの通り、2007年にT.ボーン・バーネットのプロデュースの下、アリソン・クラウスとコラボした傑作アルバム『レイジング・サンド』を出したあたりをきっかけにぐんぐんその方向性を深めて、アメリカーナの深沼へずぶずぶ。

『バンド・オヴ・ジョイ』(2010年)、『ララバイ・アンド… ザ・シースレス・ロアー』(2014年)、『キャリー・ファイア』(2017年)、アリソンさんとの再共演盤『レイズ・ザ・ルーフ』(2021年)と、素晴らしい意欲作を次々リリースしてきて。

でもって、その路線の最新作。出ました。『セイヴィング・グレイス』。今回従えているのは、2019年からともにツアー活動しているずばり“セイヴィング・グレイス”なるバンドの面々で。デュエット・パートナーとしてプラントとヴォーカルを分け合っているのは元音楽教師だというアコーディオン奏者、スージー・ディアン。二人のヴォーカルを中心に、オリ・ジェファーソン(ドラム、パーカッション)、トニー・ケルシー(ギター、マンドリン)、マット・ウォーリー(ギター、バンジョー、ヴォーカル)、バーニー・モース=ブラウン(チェロ)といった顔ぶれが、深く、マジカルなアコースティック・サウンドを奏でていく。

プラントさんが“失われたもの、そして見つけたものの歌集”と表現するこのアルバム。その言葉通り、本作には新旧素材がわくわく交錯しています。

いきなり1曲目からマニアックで。カンザス・ジョー&メンフィス・ミニーが1930年に「キャン・アイ・ドゥ・イット・フォー・ユー」なるタイトルで歌っていた曲を、1959年にロニー・ヤング&エド・ヤングが「シヴォレー」と改題して歌い継いで、1965年にはドノヴァンが「ヘイ・ジプ(ディグ・ザ・スロウネス)」とまた改題して発展的にカヴァーした後、さらに1966年にジム・クウェスキン&ザ・ジャグ・バンドが「シヴォレー」に戻してカヴァーしたりしていた、あの必殺ブルースをじわじわとぶちかます。

以降、先行シングルとして公開されていたロウのカヴァーあり、米インディー・バンド、ザ・ロウ・アンセムのカヴァーあり、T.ボーン人脈でもあるシンガー・ソングライター、マーサ・スキャンランのカヴァーあり、アリソン・クラウスも取り上げていることでおなじみのフォーク系シンガー・ソングライター、サラ・シスキンドのカヴァーあり、なんとモビー・グレイプのサード・アルバムからのカヴァーあり、ブラインド・ウィリー・ジョンソンのブルースあり、アイルランド民謡あり、トラディショナルあり…。新旧入り乱れた選曲を淡々と、深みをたたえたアコースティック・サウンドで柔軟に歌い綴るロバート・プラント&セイヴィング・グレイス。むちゃくちゃ渋かっこいい音の境地だなぁ。

アカデミックな手触りと、理屈では言い表せないような円熟した歌心が共存する、なんとも魅惑的な世界。熱心なレッド・ツェッペリン・ファンがどう反応するのかとか、もうどうでもいいというか、いっさい関係ないというか。ロバート・プラントが自らの信念に忠実に、けっしてぶれることなく独自の世界観をここまで突き詰め、これほど深いアルバム作ってくれたことに、まじ、感服するばかり。しびれます。

ちなみにこれもノンサッチ・レコードからのリリース。てことは、今月20日のCRT「ノンサッチ捕物帖」でもいい音で味わえるかも。

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