Disc Review

Loving You / Bobbie Nelson & Amanda Shires (ATO Records)

ラヴィング・ユー/ボビー・ネルソン&アマンダ・シャイアズ

当たり前のことだけれど。演奏の良し悪しというか、うまいヘタというか、そういうものを数値的に評価することはなかなかできなくて。

もちろん超ウルテクでないと実現できないフレーズというのは確かにある。とはいえ、じゃ、それができれば“いい演奏”になるのかと言えば、それはそんなこともなく。結局のところ、ヴォーカルだけでなく、楽器演奏にとってもいちばん大事なのは歌心なんだろうな、と。そういう月並みな落とし所に着地しちゃったりするわけだけど。

そんな、至極当たり前ではあるものの、誰もがふと忘れがちになってしまう大事なことを改めて思い起こさせてくれた、なんとも沁みるアルバムのご紹介です。

主役はボビー・ネルソン。ウィリー・ネルソン翁の実のお姉さんだ。1931年生まれ。5歳のころから両親のすすめで教会の足踏みオルガンを弾いたり、ゴスペル大会でピアノを弾いたり。幼いころから音楽的な才能を発揮していた。ウィリーと共著で出した自伝本などを読むと、かなり波乱の人生だったようで。何度も結婚、離婚を繰り返し、生活のためにテレビ修理店で働いたり、ホンキートンク・バーや場末のレストランで演奏したり、ハモンド・オルガン社でデモ演奏の仕事をしたり…。

やがて1973年、すでにプロのアーティストとして活動していた弟のウィリーに誘われ、彼のレコーディングにピアノ奏者として参加。ウィリーのバンド“ザ・ファミリー”のフルタイム・メンバーとしてツアーも行なうようになった。

以来、半世紀近く、歌心に満ちたそのピアノ演奏とコーラスで弟の歌声を的確にバックアップし続けてきた。2008年には満を持して初のソロ・アルバム『オートバイオグラフィー』もリリース。2017年にはテキサス・カントリー・ミュージック名誉の殿堂入りも果たしている。2021年にはウィリー翁のアルバム『家族(The Willie Nelson Family)』のレコーディングに参加。同年10月まではウィリー・ネルソン&ザ・ファミリーの一員としてコンサート活動も継続していた。

が、2022年3月に91歳で他界。『家族』がボビー姉にとって遺作となってしまった。でも、ウィリーの息子であるルーカスとマイカー、娘のポーラとエイミーに加え、家族同然にウィリーを支え続けてきたミッキー・ラファエルやポール・イングリッシュら古くからの音楽仲間たちが勢揃いしたあのアルバムで最後を迎えたというのも、それはそれで感動的かも、と。そう思ってしみじみしていたのだけれど。

もうひとつの遺作、ありました。

やはり2021年にオースティンでレコーディングされた1枚。去年の夏、本ブログでも新作『テイク・イット・ライク・ア・マン』を紹介したことがあるアメリカーナ系シンガー・ソングライターであり、フィドル・プレイヤーであり、ブランディ・カーライルらとともに結成したハイウィメンの一員であり、ジェイソン・イズベルのデュエット・パートナーであり、そして彼の妻でもあるアマンダ・シャイアズとの連名でリリースされた本作『ラヴィング・ユー』です。

アーネスト・タブの「ワルツ・アクロス・テキサス」で幕開け。以降、ウィリー・ネルソンやエルヴィス・プレスリーもレパートリーに入れていることでおなじみの「オールウェイズ・オン・マイ・マインド」、ミルス・ブラザーズやボブ・ウィルズで知られるスウィンギーな「オールド・ファッションド・ラヴ」、ご存じガーシュウィン・ナンバー「サマータイム」(ウィリー・ネルソンが客演)、1980年のウィリー・ネルソン主演映画『忍冬の花のように(Honeysuckle Rose)』の挿入歌「エンジェル・フライング・トゥー・クロース・トゥ・ザ・グラウンド」。ここまでがアナログ盤だとA面。

で、B面は我々ポップス・ファンにはママ・キャスのヴァージョンがデフォルトという感じの「わたしを夢見て(Dream a Little Dream of Me)」でスタート。以降、ゴスペル「テンプテッド・アンド・トライド」(「ファーザー・アロング」というタイトルでもおなじみ)、スペイン生まれメキシコ育ちの名曲「ラ・パロマ」(ボビーさんのピアノとアマンダのフィドルで綴るインスト)、ボビー姉の自作アルバム・タイトル・チューン「ラヴィング・ユー」(これはソロ・ピアノ)、そして必殺の「虹の彼方に(Over The Rainbow)」…と続く全10曲。

歌に、フィドルに、敬意に満ちた的確なサポートを展開するアマンダさんも立派。でも、1940年代から磨き抜いてきた鉄壁の歌心を存分にたたえたボビー姉の揺るぎなきピアノ・プレイが本当に素晴らしい。

目を見張るような、耳がそばだつような、ド派手なテクニックをこれ見よがしに披露するわけじゃない。けど、記憶に残るプレイヤーってのは、まさにこれだな、と。そんなことを改めて、確実に、力強く、温かく思い知らせてくれる1枚だ。ボビー・ネルソン。素敵な音楽をたくさんありがとうございました。

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