Disc Review

Double Infinity / Big Thief (4AD)

ダブル・インフィニティ/ビッグ・シーフ

まあ、ビッグ・シーフというバンドはフロントを張るエイドリアン・レンカーとバック・ミークというシンガー・ソングライター二人の離婚という大事件を経ても、バンドとしては揺るがなかったわけだけれど。

去年、結成以来のベーシストだったマックス・オリアーチックの脱退。こっちのほうが、なんだかバンドにとっては衝撃だったようで。ファンのほうも、新作、出るのかな…と、妙に落ち着かない気分で過ごしていたものだ。前作『ドラゴン・ニュー・ウォーム・マウンテン、アイ・ビリーヴ・イン・ユー』がある種のピークを記録した大作だったこともあるし、以降、レンカーもミークもソロ・アルバム出したりしていたし。

でも、ビッグ・シーフは健在でした。新作、出ました。もちろん、これまでは基本的にバンドの4人だけによるきゅっとコンパクトなアンサンブルを基調に音を編み上げていた彼らだけれど、ベースがいなくなったということで、一気に外部ミュージシャンへの依存度を高めつつ、これまでとはひと味違う、新たな音世界を構築してみせた。アルバム・タイトルは前掲、エイドリアン・レンカーのソロ・アルバムが録音されたスタジオの名前から取られている。

ベースは、テレンス・ブランチャード、カマシ・ワシントン、リオン・ブリッジスらとの共演でもおなじみのジョシュア・クランブリー。オリアーチックの穴を埋める…というより、穴から溢れ出ちゃって、新たな色合いを付加している感じ。ニュー・エイジ/アンビエント系の巨匠、ララージも参加。パーカッションも多用。ループも導入。ハンナ・コーエンをはじめコーラス陣も充実。

エイドリアン・レンカーが紡ぐメロディは、基本的にこれまで同様、無垢でシンプルなリフレインを折り重ねながら、なんとも不思議な瞑想感へと聞き手を引き込んでいくタイプのものなのだけれど。それを支える音像はぐっとアンビエント色、サイケデリック色を強めて。新生ビッグ・シーフの第一歩を印象づけてくれる。

内省へと深く分け入りつつ哲学的な思索を巡らせたり、失われたものと待ち続けるもののイメージを交錯させたり、過去と未来を瞑想したり…。レンカーの世界観は、もちろん彼女がソロ・アルバムで披露するような、とことんミニマルな弾き語りで凄まじい威力を放つものなわけですが。本作でのような、広がりのある緻密なアンサンブルの下でもまた別の感触を伴いながら聞き手の心に静かに、しかし確かに沁み込んでくるのだな、と改めて。

スティーリー・ダン的なコンセプトの下で構築されたフォーク・ロック・ワールド…とか、なんだかよくわからないけど(笑)、そんな感触もちらっと。

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