Disc Review

Thimk / Stephen Bishop (Life's A Bish Records)

シンク/スティーヴン・ビショップ

「こんにちは、スティーヴン・ビショップです。これまで50年間、アルバムにこういうメッセージを残したことはありませんでしたが、そろそろその時が来たと思います。今、私の隣にはランディ・ニューマンがいます。もちろん本物のランディ・ニューマンではなく、彼にちなんで名付けた私の犬です。私の猫、ポール・マッカートニーは隅で丸まって寝ています。良い仲間とともにいます。みなさんが私の最後のアルバム『Thimk』を聴いている間も、同じように良い時間を過ごしてくれることを願っています。アーティストが、これが自分の最後のアルバムだと口にするところを聞きたい人などいないと思います。でも、20作のアルバムを経て、その時が来ました。過去のライヴ・アルバムを今後リリースする可能性はありますが、新しいレコーディングに関してはこれが私の最後の音楽作品となります。この機会に、デビューした1970年代から私を支えて続けてくれたみなさんに感謝したいと思います。私の曲の一部が皆さんの人生のサウンドトラックになったことは、私にとって本当に大きな意味がありました」

 このアルバムの本編ラスト、ボーナス・トラックに入る前に収められたスティーヴン・ビショップからのメッセージだ。そうスティーヴンがしみじみ語ったところで、突然、奥さんと思われる女性の声がカットインしてくる。

「スティーヴン! スティーヴン! 忙しいの?」
「あ、ちょっとね」
「ゴミ出し、あなたの番よ! 行って!」
「わかったよ」

 と、そんな微笑ましいやりとりを経て、改めてリスナーへのご挨拶。

「もう行かなきゃ。ハッピー・ワイフ、ハッピー・ライフ、だよね。このアルバムを楽しんでいただけていることを心から願っています。そして、『Thimk』があなたたちに考えさせる(Think)ものとなることを。この作品を形にするためには、才能豊かなアーティストたちや親しい友人たちの協力が不可欠でした。特に、私の友人ジミー・ウェブに感謝しています。ジミー、演奏してくれ。愛と太陽の光を。スティーヴンより」

 そして、ジミー・ウェッブによる「オン・アンド・オン」のピアノ演奏が続く。

 泣けてきました。1976年にデビュー・アルバム『ケアレス』を初めて聞いたときの胸の高鳴りがふっと戻ってきたような…。そういえば、ゴシちゃん(五島良子)と一緒に番組やっていたとき、ぼくがギター弾いて、彼女の素晴らしいヴォーカルで「リトル・イタリー」とかカヴァーしたこともあったっけ。楽しかったなぁ。

 そんなスティーヴン・ビショップ、最後のスタジオ・アルバム。まだ73歳ながら、過去数年間で手の関節炎が進行したため、まだできるうちに最後の1枚を完成させようと、全てを注ぎ込んで作り上げたアルバムなのだとか。『Thimk』というアルバム・タイトルは、“Think”をあえてスペルミスしたものだそうで。発音的にも“シンク”でいいらしく。なので、カタカナ表記は“シンク”にしてあります。X(旧ツイッター)で“I AM NOT ABE NT311”さんからリリースを教えてもらい、さっそく聞いてみました。他の新曲もいい曲ぞろいで。ちょっと歌声はさすがに弱くなってきているものの、真っ向からの良質なミドル・オヴ・ロード系の佳曲ぞろい。

 冒頭の「ナウ・ザット・アイヴ・ヒット・ザ・ビッグ・タイム」は、なんでもデビュー前、1970年代初頭に母親への心からの敬意を込めて作曲された曲だとか。エリック・クラプトンがギターで、スティングがバック・ボーカルで客演しています。あと、1982年に映画『トッツィー』のサントラで歌っていた「君に想いを(It Might Be You)」を作者デイヴ・グルーシンのピアノ1本をバックに再演しているのも沁みました。

 そんなふうにキャリアを見渡すような形で構成されたファイナル・アルバム。ストリーミング/デジタル・ダウンロードは冒頭で引用した「ア・メッセージ・フロム・スティーヴン」までの全12曲なのだけれど、CDあるいはLPにはあとふたつ、ボーナス・トラックが入ってるみたい。今のところフィジカルは本人のWebストアとかでしか買えないみたいで、ちょっとめんどくさいのだけれど。アルバム制作の舞台裏とか、スティーヴンのキャリアの中で未公開だったものとか、そのあたりの映像も特典として付いているらしい。こりゃ買わなきゃ。

 他にもアート・ガーファンクル、ジミー・ウェッブ、グラハム・ナッシュ、マイケル・マクドナルド、ケニー・ロギンス、クリストファー・クロス、デヴィッド・パック、アメリカのジェリー・ベックリーとデューイ・バネル、デヴィッド・ベノワ、マリリン・マーティン、ジャック・テンプチン、リア・カンケル、ネイザン・イースト、グレッグ・フィリンゲインズ、リー・スクラー、グレッグ・リーズ、スティーヴ・ポーカロ、スティーヴ・ガッドなど、スティーヴンの音楽仲間たちが勢揃い。プロデュースはマーカス・イートン。

 じんわり、じっくり、楽しませてもらいます。こちらこそ心からのありがとうを贈りますね。スティーヴン、お疲れさま!

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