
ロジャー・ニコルス・ソングブック/ヴァリアス・アーティスツ
5月に亡くなったロジャー・ニコルスへの素晴らしい追悼コンピが出ました。
というか、もともとはニコルスさんとも長年深い親交を持つ濱田髙志さんの発案によって数年前に持ち上がった企画で。ニコルスさんご本人の全面協力の下、生誕85周年に向けて編纂されていた作品集だったとか。ところが、去る5月17日、ニコルスさんがオレゴン州の自宅で84歳で亡くなったため、結果的に追悼盤としてのリリースになってしまった。残念です。
ただCDのブックレットを見ると、他界直前、5月5日付けのご本人のメッセージも掲載されているし。仕上がりを見届けたうえでの旅立ちだったのかな。きっと天国で喜んでいらっしゃるに違いない。
1960年代からトニー・アッシャー、ポール・ウィリアムス、ビル・レーンら優れた作詞家たちと組んで数々の名曲を紡ぎ上げてきたソングライター/シンガーのロジャー・ニコルスの作品集。監修はもちろん濱田さん。選曲にはニコルスさんもがっつり絡んでいるようで、ややこしい契約問題にいろいろ縛られつつも、ある程度レーベルを超えながらほぼ年代順にCD2枚に珠玉の全42曲が並べられている。
個人的には初めて耳にした音源もけっこうあって。それもそのはず、日本初CD化18曲。うち、世界初CD化が10曲。
このあたりも契約の壁ゆえだろうか、なぜか「アウト・イン・ザ・カントリー」が入っていなかったり、カーペンターズの歌声がいっさいなかったり。「サムデイ・マン」はモンキーズじゃないのかとか、「トーク・イット・オーヴァー・イン・ザ・モーニング」はフンパーディンクではなくアン・マレーのほうがよかったなぁとか、「アイ・ネヴァー・ハッド・イット・ソー・グッド」も聞きたかったなとか。細かいことを言い出せばきりがないものの。ところどころに見受けられる若干苦しげなヴァージョン選びも含め、できる範囲でかなり綿密に編まれた印象。素晴らしい。贅沢な文句つけてないで、足りない部分は各自で…ってことっすね。
1973年に森山良子がアルバム『森山良子イン・ロンドン』で初演した楽曲や、2011年、トワ・エ・モアに書き下ろした近作まで視野に入れつつのセレクション。これは間違いなく日本で編まれなければありえなかった作品集だと思う。1960〜70年代の米国における最良のクオリティを誇るMOR系の名曲群がここに凝縮されている。濱田さんによる詳細なライナーもうれしい。盟友ポール・ウィリアムスからのメッセージもあり。
以前、拙著『グレイト・ソングライター・ファイル〜職業作曲家の黄金時代』のポール・ウィリアムスの項を本ブログで取り上げたときのエントリーも軽く参照してみてください。
そこでも紹介した英ACE編纂のポール・ウィリアムス作品集あたりと併せて楽しみたいアンソロジー。でも、そのポール・ウィリアムス作品集同様、こちらもストリーミングはありません。フィジカルでどうぞ。
【追記】2025/08/08 22:10
本ページ公開後、濱田さんからX上でいろいろ事情を教えていただきました。許可をいただいたので、こちらにも転載しておきますね。契約の縛りの中でご苦労なさったようです。本当にお疲れさまでした!
ちなみに「Out in the Country」はロジャー、濱田ふたりの意向で、当初からスリー・ドッグ・ナイトがNGなら代替なしで収録を見送り、「Talk it Over in the Morning」はロジャーはジャック・ジョーンズ推し、次候補がアン・マレー、濱田はシロー・モーニングかベン・マクピークの演奏を候補に。しかし四者ともNGでフンパーディンクになったという経緯があります。「この曲については誰の歌唱でも入れたい」とはロジャーの弁。いろいろ悩ましいなか落ち着いた選曲なのでした。
今回は当初からソニーへの持ち込みを想定していました。ユニバからはソングブックの既発盤がありますし、RCAはじめ現ソニー管理曲を優先していましたので。何よりカーペンターズ、ハーブ・アルパートはハナから諦めていましたから。ロジャーからリチャードやハーブに打診も考えましたが、ロジャーがそれはやめようとのことで。彼らの意向を尊重したいと。実に彼らしいです。