Disc Review

Look Up / Ringo Starr (Capitol Nashville/UMG)

ルック・アップ/リンゴ・スター

2019年にリンゴ・スターがアルバム『ホワッツ・マイ・ネーム』をリリースしたとき、本ブログでも紹介したのだけれど。そのときにも引用させてもらった文章があって。1995年にとある音楽誌に寄せた拙稿の一部。ここでも改めて引用させてもらいます。

得をしているのか、損をしているのか。よくわからない。リンゴ・スター。この人の位置どりってやつは、なんだか、本当に独自だ。自由にも見える。とてつもなく幸運なようにも見える。けれども、同時に並外れて窮屈で、不運なように見えなくもない。

リンゴについての文章を書くとき、多くの人たちがよく使う言い回しだが。まさに“ウィズ・ア・リトル・ヘルプ・フロム・マイ・フレンド”。リンゴ・スターという人は、ビートルズ時代も、ソロになってからも、いつだってたくさんの才能豊かな友達からのあたたかいサポートを受けながら、ひょうひょうと活動を続けてきた。意地悪な目には、偉大な友人たちの威光にすがっている…と映るかもしれない。そういう目から見れば、リンゴはまさに“得をしている”ってことになる。が、そう思われてしまいがちなこと自体、もしかしたらリンゴは“損をしている”のかもしれないし。いやはや、ややこしい立場にいる人だ。

が、ここはひとつ、別の目で。リンゴがいるところには、いつも必ずあたたかい友達が自然に集まってきてしまう、と。そんなふうにとらえたほうが正解だろう。ジョン・レノン、ポール・マッカートニー、ジョージ・ハリスンに支えられていたビートルズ時代からしてそうだ。ソロになってからも、クインシー・ジョーンズ、ビージーズ、ニルソン、エルトン・ジョン、ドン・ウォズ、ジェフ・リンなどなど、その時代その時代、多彩な分野の友人たちからの強力な援護を受けながら、風体そのままの、ほのぼのとしたアルバムをリリースしてきた。(中略)この人望も含めて、リンゴ・スターの並外れた才能なんじゃないかと、ぼくは思っている。

と、これが不変のリンゴ・パワー。というわけで、今回、『ホワッツ・マイ・ネーム』から5年半ぶりにリリースされた新作スタジオ・アルバム『ルック・アップ』もそんな1枚です。今回は55年前、1970年にリリースされたセカンド・ソロ作『ボークー・オヴ・ブルース』からの一巡りを感じさせるカントリー〜カントリー・ロック・アルバム。なので、ゲストもそっち系。

『ボークー…』のほうは古きよきエルヴィス・プレスリーのレコードでとてつもないグルーヴ感を演出してみせたダブル・ドラム・チーム、DJ・フォンタナとバディ・ハーマンをはじめ、ジェリー・リード、チャーリー・マッコイ、ピート・ドレイク、チャーリー・ダニエルズ、ベン・キースら当時の名うてをかき集めてナッシュヴィルで制作されていたけれど。

今回はTボーン・バーネットのプロデュースの下、ナッシュヴィルとロサンゼルスでレコーディング。全11曲、ほぼすべてTボーンがダニエル・タシアンとかビリー・スワンとかと共作したナンバーだ。リンゴ自身もラストを締める「サンクフル」を書いている。なんでもリンゴはまたEPでも作ろうと思ってTボーンに何曲か書いてくれと依頼したところ、彼はなんと9曲も書いてきて。それがすべてカントリーっぽい曲だった、と。じゃ、そういう傾向のフル・アルバムを作っちゃおう、と。そんな予想外の展開になったらしい。

リンゴは全編でドラムを叩いているみたい。ゲスト・プレイヤーとしてはここ数年、ブルーグラス・シーンを騒然させ続けているビリー・ストリングスとか、モリー・タトルとかがここぞの数曲でごきげんなギター演奏とデュエット・ヴォーカルを聞かせている。間もなく本人たちの新作アルバムも出るラーキン・ポーも2曲に参加。ギターに、コーラスに的確な客演を聞かせてくれる。さらにルシャスや、アリソン・クラウスも1曲ずつ。Tボーンの人脈が活かされた、いい顔ぶれだ。素晴らしい。

まあ、今回もまた、特にこれぞというフックのある曲が含まれているわけでもなく(笑)、なんかそこそこの仕上がりではあるのだけれど。ただ、誤解を怖れずに言えば、以前『ホワッツ・マイ・ネーム』のときにも書いた通り、この贅沢な“そこそこ感”こそがぼくにとってリンゴ最大の魅力だったりするのでした。

84歳にして変わらず飄々と、頼もしい後輩たちにヘルプしてもらいながら、好きなカントリーやロックンロールを叩き語るリンゴ。いいですねー。

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