Disc Review

Pachuco Boogie / Various Artists (Arhoolie/Smithsonian Folkways)

パチューコ・ブギー/ヴァリアス・アーティスツ

しかし、なんだなぁ。国境ってやつはなんともやっかいで。うまくすれば二つの異文化が互いを触発し合い、絡み合い、反発し合いながら、刺激的な形で結びつく架け橋のような存在であり。かと思えば、そうした行ったり来たりを“悪の扉”だとか“脅威”だとか見なす人にとっては、国境なんか閉じてしまえ、ということになって、壁を建設しちゃったりすることになったり。

絶対的な正解なんかないのだろうけど。でも、できることならば国境ってやつがポジティヴに機能する世の中であってほしいものだな、と。心から願うわけです。

象徴的なものとしては、やはり米国とメキシコの国境かな。南テキサスとメキシコ、あるいは南カリフォルニアとメキシコ。あの地域で生まれる音楽は、やっぱりとてつもなくマジカルで、躍動的で、きわどくて、スリリングで。テキサス側からメキシコの要素を取り込んだダグ・サームたちの音楽もいいし、ロサンゼルス側からのラティーノ・ロックンロールやチカーノ・ソウルとかもやばいし、もちろんメキシコ側から北の米国に眼差しを向けるノルテーニョとかもごきげんだし。

と、そんなきわどいエリアでかつて盛り上がった若者文化のひとつが“パチューコ”。テキサス州エルパソ在住の若きチカーノ(メキシコ系アメリカ人)の、まあ、ワルなコミュニティで1930年代末に誕生し、1940年代のロサンゼルスで育まれたサブカルチャーだ。ラテン風味漂うジャズやジャンプ・ブルースなどをBGMに、酒とドラッグ渦巻くナイトライフを満喫しながら白人社会に対する反抗を体現するギャングスター文化というか…。

そんな往年のパチューコ・シーンを大いに盛り上げ、多くのチカーノの若者たちに愛された音楽をスミソニアン・フォークウェイズ/アーフーリーがコンパイルした2002年の名盤、“ヒトスリック・メキシカン=アメリカン・ミュージック”シリーズの第10集『バチューコ・ブギー』が、このほどわれらがライス・レコードから国内配給されました!

オープニングを飾るのはラテン音楽初のミリオン・セラーを記録したという1948年の「パチューコ・ブギー」。ジャンプ・ブルースを基調に、パチューコの間で隠語っぽく多用されていたというスペイン語と英語のチャンポン語“カロ”による会話なども交えた躍動的な曲で。これ、カルテート・ドン・ラモン・シニア名義なのだけれど、実際はパチューコ・シーンの重要人物、ドン・トスティ率いるドン・トスティズ・パチューコ・ブギー・ボーイズの演奏。本コンピの全21曲中9曲がこのドン・トスティ絡みだ。ブギ系だけでなく、スウィンギーでメロディアスな「ウィサ・ワイナ」って曲とかも素敵。

ライ・クーダーやロス・ロボスがそれぞれごきげんにカヴァーしていたことでおなじみ「ロス・チュコス・スアベス」をはじめとするアリゾナ出身のギタリスト/シンガー、ラロ・ゲレーロの曲も3曲。その他、ジャズ、ブギ、フォーク、ブルース、ラテン、カリビアン音楽などの要素がスリリングに交錯する多彩なボーダー・ミュージックの雨アラレ。英語とスペイン語も入れ乱れ。

国境をめぐる様々な対立とか争いとか、確かにむずかしい問題ではあるのだろうけれど、そうした歪みのようなものの中からこうした生き生きとしたミクスチャー文化が生まれてきたことも事実なわけで。音楽のことだけ考えた無責任な理想論ではありますが、すべてがぎりぎりのバランスで共存できる世の中であってほしいものです。

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