Disc Review

Pour A Little Sugar On It: The Chewy Chewy Sounds of American Bubblegum 1966-1971 / Various Artists (Grapefruit/Cherry Red Records)

プアー・ア・リトル・シュガー・オン・イット:ザ・チューイー・チューイー・サウンズ・オヴ・アメリカン・バブルガム1966〜1971/ヴァリアス・アーティスツ

“ハッピー・ゴー・ラッキー・サウンド”とか言われていたっけ。

バブルガム・ポップス。大好き。個人史で言うと、ぼくが中学生だった1960年代末ごろが盛り上がりのピークで。ぼくはラジオにかじりつきながら、とにかくバカ楽しいバブルガム・ヒットがかかるのを心から楽しみにしていたものだ。

バブルガムには大まかに二通りの定義があって。ひとつは広義のバブルガム。プリ・ティーンからロウ・ティーンをターゲットに制作されたキッズ向けポップスの総体を表わすケースだ。この場合は、時代の別け隔てなく、パートリッジ・ファミリーからベイ・シティ・ローラーズ、レイフ・ギャレット、ティファニー、ニュー・キッズ・オン・ザ・ブロック、テイク・ザット、ケイティ・ペリー、ことによったらテイラー・スウィフトまで。全部がバブルガムだ。

そしてもうひとつ。狭義のバブルガム。こちらは時代が限定される。1967年から72年くらいまでの間に一大旋風を巻き起こしたポップス形態を特定して指すケース。オールディーズ・ファンの間で普通にバブルガムといった場合は主にこちらを指す。

きっかけとなったのは、やはりモンキーズか。仕掛け人は米音楽出版ビジネス・シーンの大立者、ドン・カーシュナー。1966年、カーシュナーは当時世界中を制覇していたビートルズに対するアメリカからの回答という形でモンキーズをデビューさせた。もちろんご存じの通り、彼らはテレビのレギュラー番組のためにオーディションで寄せ集められた即席バンド。売れに売れているビートルズのバンド形態だけ真似た架空のグループ。自然発生的なバンドではなく、作られたヒーローだった。

が、ここでカーシュナーがかかえていた豊潤なスタッフの力が物を言う。まずトミー・ボイス&ボビー・ハート、ジェリー・ゴフィン&キャロル・キング、バリー・マン&シンシア・ワイル、ニール・セダカ&ハワード・グリーンフィールドといったお抱えソングライターたちによる手堅いポップ・ソングを用意する。演奏はすべて一流のスタジオ・ミュージシャン。本人たちは歌うだけ。その曲をテレビ番組で流して煽りまくる。当然、出す曲出す曲すべて大ヒット…。この方法論のもと、シーンに華々しく登場したのがモンキーズだった。この巧妙なやり口で彼らは66年から68年前後まで大人気を博した。

このやり口を引き継いだのがジェリー・カセネッツとジェフ・カッツというインディペンデントなプロデューサー/ソングライター・コンビ。この2人の動きをたどることがほぼそのままバブルガム・ミュージックの歴史とイコールでつながる。もともとはいろんなレコード会社を渡り歩きながらヒット・シングルをそこそこ制作していたカセネッツ&カッツ。彼らが経営していたスーパー・K・プロダクションが、やがて1967年暮れ、ブッダ・レコードの傘下に収まったときから快進撃が始まった。

カセネッツ&カッツは、1960年代半ばに巻き起こった英国ビート・グループの襲来に対抗する形でアメリカで草の根的に盛り上がりつつあったガレージ・パンク系のサウンドに着目。その激烈さと粗野な肌触りを巧妙にやわらげ、そこに親しみやすくキャッチーな歌詞とメロディを乗せて大当たりをとった。

パーカッションやハンド・クラップを多用して強調されたステディな8ビート。スピーディなブレイク。キャッチーなリフ。ブルーノートを強調した独特のメロディ。まさに“売れ線”のノウハウ、アイデアを3分間の中にぎゅっと凝縮した楽曲をオハイオ・エクスプレス、1910フルーツガム・カンパニー、ミュージック・エクスプロージョン、レモン・パイパーズ、ロイヤル・ガーズメン、クレイジー・エレファントなど多くのグループに提供し、ヒットチャートを賑わした。

とはいえ、これらのグループの大半はグループのようでいて実はグループじゃない。一部を除けば、ジョーイ・レヴィン、アーティ・レズニック、リッチー・コーデル、ポール・レカ、ピート・アンダース&ヴィニ・ポンシア、エリオット・チプラットら当時の若手スタジオメンたちがカセネッツ&カッツとともにでっちあげた架空のグループばかりだった。が、だからってバカにしたもんじゃない。いや、むしろ実体なき存在だったからこそ、彼らはあれほどまでに徹底したポップ・センスを発揮することができた。1960年代前半、徹底した独裁プロデュースの下、一大ロックンロール・シンフォニーを完成させたフィル・スペクターのごとし。ま、目指すサウンドの最終到達点のスケール感から言うと少し違うような気もするけど(笑)。とにかくカセネッツ&カッツ。彼らの試みは見事にハマった。1968年から69年にかけて20曲にのぼるブッダ系バブルガム・ミュージックが全米チャートを賑わした。

そして、ついにドン・カーシュナーが元祖の意地をかけてこの分野に参戦してくる。ジェフ・バリーとアンディ・キムをメイン・ソングライターに据え、カーシュナーは人気コミック『アーチー』のテレビ・アニメ版グループをでっちあげた。1969年のことだ。それがアーチーズ。やはりスタジオ・シンガーだったロン・ダンテをリード・シンガーに据え、ひたすら楽しいばかりのポップ・ソングを次々ヒットさせていった。代表作「シュガー・シュガー」は69年度最大の収益をあげたシングルとなった。

そんなバブルガム・ポップを一気に詰め込んだCD3枚組『プア・ア・リトル・シュガー・オン・イット:ザ・チューイー・チューイー・サウンズ・オヴ・アメリカン・バブルガム1966〜1971』だ。注文していたブツがようやく手元に届いたもんで、今朝はつい熱くなってしまいましたよ。

3枚のCDのうち、ディスク1の冒頭を1910フルーツガム・カンパニーの「サイモン・セッズ」が飾って、ディスク3のラストをアーチーズの「シュガー・シュガー」が締める。その間に特大ヒットもの、超レアもの、え? こんな人のこんな曲まで? 的なオブスキュアものがずらり並べられた全91曲。

内訳としては、アーチーズが全部で6曲と、いちばんたくさん収められていて。そのアーチーズのリード・ヴォーカルを担当していたロン・ダンテ名義のものが3曲。やはりダンテがヴォーカルをつとめたカフ・リンクスとかももちろん入ってます。

アーチーズの次を狙ってドン・カーシュナーが企画しニール・セダカ&ハワード・グリーンフィールドに楽曲制作を依頼した新アニメ・シリーズ、グローブトロッターズとか、アーティ・レズニックと組んで「渚のボードウォーク(Under the Boardwalk)」など名曲を生み出したソングライターのケニー・ヤングがでっちあげたサン・フランシスコ・アースクエイクも3曲。

あとは1910フルーツガム・カンパニー、オハイオ・エクスプレス、クレイジー・エレファント、レモン・パイパーズ、ルー・クリスティ、ストリート・ピープル、ペパーミント・トロリー・カンパニーあたりが2曲ずつ。

あとはもう、モンキーズ、アンディ・キム、ボイス&ハート、ブライアン・ハイランド、ジョン・フレッド&ザ・プレイボーイズ、エレクトリック・プルーンズ、グラス・ルーツ、ロボ、ソウルト・ウォーター・タフィ、ゲイリー・ルイス&ザ・プレイボーイズ、カウシルズ、パレード、ボビー・シャーマン、ボックス・トップス、トミー・ロウ、シャドウズ・オヴ・ナイト、ジャガーズ、ポール・リヴィア&ザ・レイダース、リッキー・ネルソン、フリー・デザインなど、ちょっと広めにサンシャイン・ポップやポップ・ソウル方面にも触手を伸ばしたバブルガムものがずらり。

ヴェルヴェット・アンダーグラウンドの「フー・ラヴズ・ザ・サン」とか、ビーチ・ボーイズの「ハウ・シー・ブガルード・イット」とか、ママ・キャスの「愛するベイビー(Move In a Little Closer, Baby)」とか、ハーフネルソン(スパークス)の「ファ・ラ・ファ・リー」とかも選曲されていて。この辺のテイストがひとつのポイントになっているかも。

グレイプフルーツ編纂ものの常で、今回もストリーミングは思いきり曲数が少ない全13曲。ご興味ある方はフィジカル、入手しましょう。今回も1曲ごとにジャケ写入りで詳細な解説をしてくれている48ページのブックレットが貴重です。

子供向けの甘々音楽だの、儲け主義の権化だの。自称“硬派の”ロック・ファンからはバカにされてばかりだったバブルガム・ポップですが。でも、儲け主義じゃなく、そのうえ子供向けでさえないポップ・ミュージックなんて、いったいどこが面白いんだ、と。むしろぼくはそう思う。だからこそバブルガム。ポップ・ミュージックのある側面を見事に体現した音楽形態として愛で続けていきたいものです。

Resent Posts

-Disc Review
-, , ,