Disc Review

MEMPHIS / Elvis Presley (RCA/Legacy/Sony)

メンフィス/エルヴィス・プレスリー

エルヴィス・プレスリーは、その短い生涯の中、米テネシー州メンフィスでざっくり4回、レコーディング・セッションを行っているのだけれど。やはりさすがは“心のふるさと”メンフィス。この地でのエルヴィスは違う。格別。

メンフィスでのエルヴィスがどんなにかっこいいかについては、5年くらい前、1969年のメンフィス・レコーディング音源を集大成した『アメリカン・サウンド1969』ってボックスセットが出たとき、これでもか…という勢いで書かせていただいたので、そちらをぜひご参照ください。本ブログだけでなく、あちこちの音楽雑誌やライナーノーツでエルヴィス関連の原稿を書かせていただく際にも、まじ繰り返し繰り返し、しつこくそれを主張してきて。ほんとすみません、うるさくて。

で、そんなぼくがまたまた驚喜するボックスセットが出ました。それが本作、ずばり『メンフィス』と題されたCD5枚組なのでありました。

まずディスク1が、1953年から1955年にかけてメンフィスのサン・スタジオで録音された初期音源集だ。1曲目の「ザッツ・オールライト」から10曲目の「ミステリー・トレイン」までが1954〜55年にサン・レコードから出たシングル。11曲目の「アイ・ラヴ・ユー・ビコーズ」から15曲目「ブルー・ムーン」までが1956年にRCAレコードへ移籍後に出たファースト・アルバム『エルヴィス・プレスリー』に収められて世に出た音源。で、16曲目の「ハーバー・ライツ」以降の8曲が、エルヴィスの生前だったり没後だったり、後年編まれたさまざまなコンピレーションに収められて発掘リリースされたもの。計23曲のサン音源が楽しめる。

で、ディスク2がわが最愛の1969年メンフィス・セッション音源。1969年に出た2作のアルバム『フロム・エルヴィス・イン・メンフィス』と『フロム・ヴェガス・トゥ・メンフィス』に振り分けられて世に出た超ごきげんな収録曲群を中心に、シングル・オンリーの音源や、後にボックスセットで発掘された音源など、計24曲。

ディスク3が、1973年の『ロックン・ロール魂(Raised on Rock/For Ol' Times Sake)』、1974年の『グッド・タイムズ』、1975年の『約束の地(Promised Land)』に収められた1973年のスタックス・スタジオ・セッション23曲。

ディスク4が1974年の『ライヴ・イン・メンフィス(Elvis Recorded Live on Stage in Memphis)』を元に、2004年、Follow That Dreamレコードが未収録曲も含めて再構成した拡張版と同じもの。1974年3月20日、メンフィスのミッドサウス・コロシアムでのライヴ録音だ。

で、ディスク5が、1976年の『メンフィスより愛をこめて(From Elvis Presley Boulevard, Memphis, Tennessee)』と1977年の『ムーディ・ブルー』の収録曲群。1976年2月と10月に、エルヴィスの自宅であるメンフィスのグレイスランド内ジャングル・ルームに機材を持ち込んで行われたセッションからの音源だ。

すべて一発録りだったサン・セッションの音源はマルチ・トラック・テープがないのでもちろんそのままだけれど、あとはオリジナル・マルチをもとに、近年エルヴィスのリマスター/リミックス音源に関わり続けているマット・ロス=スパングがすべてリミックス。といっても、特に1969年のメンフィス・セッションとか、ホーン・セクションとかが2チャン・マスターをミックスする段階でリアルタイムにダビングされていたらしく、物理的にオリジナル・ミックスを尊重した形でのリミックスは不可能。

ということで、ロス=スパング、だったらいっそのこと…というわけか、今回のリミックスはホーンとかストリングスとかコーラスとか、ベーシック・レコーディングの段階で入っていない音は全部外した形でのアンダブド・ミックスに仕立て上げている。もちろんベーシック・レコーディングの際にすでに入っていたコーラスとかストリングスとか、あるいはエルヴィス本人によるコーラス・ダビングとかはそのまま活かされているけれど。基本、なかなかに新鮮な仕上がりではあります。特に1969年ものだと、トミー・コグビル&ジーン・クリスマンというアメリカン・サウンド・スタジオきっての最強リズム・セクションのグルーヴもぐいぐい楽しめて超うれしい。

ただし、いろいろなところに堂々と掲載された宣伝文句“故郷メンフィスでの録音を完全網羅”というのに反して、このボックス、実は選曲的にエルヴィスのメンフィス録音をすべて網羅しているわけではなく。

たとえば1969年ものだと「ア・リトル・ビット・オヴ・グリーン」とか「インヘリット・ザ・ウィンド」とか「ラバーネッキン」とか9曲が選から外されているし、1973年ものだと「ガール・オヴ・マイン」とか「ラヴ・ソング・オヴ・ザ・イヤー」とか4曲が外されている。収録時間的な制約とかがあったのかもしれないけど。看板に偽りあり。となると、この箱の目玉はメンフィス録音の集大成とか、そういうコンプリート性にではなく、やはりロス=スパングの最新リミックスの仕上がりのほうにある、と。そういうことなのだろう。そういう楽しみ方をすべき5枚組ってこと。

とはいえ、長年オリジナル・ミックスにどっぷり慣れ親しんできちゃった身としては、「サスピシャス・マインド」のホーン・フレーズとか、「ドゥ・ユー・ノウ・フー・アイ・アム」のストリングスとかハモりとか、「強く生きよう(Only the Strong Survive)」や「わが愛の力(Power of My Love)」の女声コーラスとか、ダビング分がないとなんだか物足りない曲があるのも事実。レジー・ヤングのギターがちっちぇーよ…的な曲もあったりするし。

まあ、リミックスがうれしい曲もあれば、余計なお世話な曲もある、と。それもリミックスものの常だから。いずれにしても改めてメンフィスのエルヴィスというのがかけがえのないものだということを再確認できるという、そこそこ楽しい箱ではあります。

日本盤は出ず、輸入盤のみ。日本でのエルヴィス人気もけっこう厳しくなってきましたかねぇ。淋しい…。24曲を抜粋した2枚組ヴァイナルもあります。

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