Disc Review

The Border / Willie Nelson (Legacy/Sony)

国境/ウィリー・ネルソン

ちょうどひと月ほど前、4月29日に91歳を迎えたウィリー・ネルソン。来月21日、ジョージア州アルファレッタのアメリス・バンク・アンフィシアターを皮切りに、ボブ・ディランやロバート・プラント&アリソン・クラウス、ジョン・メレンキャンプらと連れだって最新ツアー“ザ・2024・アウトロー・ミュージック・フェスティヴァル・ツアー”を9月まで行なうそうで。

“仲間と一緒に音楽を作る。それが俺の好きな人生。また旅に出るのが待ちきれない”

1980年の主演映画『忍冬の花のように (Honeysuckle Rose)』の劇中歌「オン・ザ・ロード・アゲイン」で、ウィリー翁はそう歌った。そこにまったくウソはなかった。音楽にかける情熱は90歳を超えてもまったく衰え知らず。というわけで、ツアーに出るだけでなく、元気に新作アルバムも届けてくれましたよ。

何作目なのか、ぼくにはもはや数え方がさっぱりわかりません。どの情報を信じたらいいのかも定かでない。オフィシャルによればこれが通算152作目(!)のアルバムなのだとか。ウィキペディアによればソロ・スタジオ・アルバムとして75作目だ、と。全然違うじゃん(笑)。まあ、ウィキのほうがまだ現実的に信じられる気もしなくはないけれど。それにしたってとてつもない枚数だ。

今回も盟友バディ・キャノンがプロデュース。こちらも欠かせない相方、ハーモニカのミッキー・ラファエルももちろん参加している他、バディ・キャノンが手配したのであろう腕ききたちがばっちりバックを固めている。もちろんウィリー翁も愛用のおんぼろナイロン弦ギター“トリガー”でヴォーカルに負けない歌心を披露。

タイトル・チューンはロドニー・クロウェルの2019年のアルバム『テキサス』の収録曲のカヴァー。メキシコとアメリカの国境で働く国境警備員の苦悩を描いた問題作で。能地祐子が国内盤に寄せたライナーにも書いてあったけれど、その国境をめぐるむちゃくちゃな政策を売りにする、有罪判決すらものともしないらしきモンスターのような大統領候補が世間を賑わすこの時期に、まさに国境そのものをタイトルに冠したアルバムをリリースしてきたわけで。

2017年の『なんてこったい!(God's Problem Child)』の収録曲「削除そして早送り(Delete and Fast Forward)」でも、前年の大統領選挙の結果を受け、“消去して早送りするんだ/選挙は終わったが、勝者はいない”とストレートにプロテストしていた翁。今回もいろいろ憂えているのだろう。やはりライナーにも書かれていた通り、どっちのおじいちゃん候補よりも断然年上のウィリー翁に、いっそ大統領になってもらったほうが…みたいな?(笑) 実際、そういうツアー・グッズもおなじみだし。いずれにせよ、一昨日紹介した71歳のテリー・ローチ同様、ウィリー翁の褪せることなき怒りのようなものが感じられて、泣ける。

もう1曲、ロドニー・クロウェル作品のカヴァーが入っていて。それは「メニー・ア・ロング・アンド・ロンサム・ハイウェイ」。人生という長く孤独なハイウェイを自分の信じるやり方で進む男の心が綴られている。

それらカヴァー曲だけでなく、他ソングライターによる書き下ろし曲なども含まれているけれど、ウィリーとバディ・キャノンの共作曲も全10曲中4曲。これがまたいい。年輪を重ねた者にしか描けない、過ぎ去った時や愛する人への想いなどが切々と綴られていて。子供のころにラジオで耳にした古いカントリー・ソングから愛と真実を学んだと歌われる「ワンス・アポン・ア・イエスタデイ」とか、自分の心に棲む傷みから解き放たれるにはどんな代償が必要なんだ? と自問するラスト・チューン「ハウ・マッチ・ダズ・イット・コスト」とか、沁みます。まじ。

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