ルック・トゥ・ジ・イースト、ルック・トゥ・ザ・ウェスト/カメラ・オブスキュラ
各所で大いに話題になっているカメラ・オブスキュラ、10年ぶりの新作アルバム。今朝の東京はあいにくの大雨だけど、このところずいぶんとあったかく、半袖が気持ちよくなってきた季節のウォーキングのお伴BGMに思いきり重宝している1枚です。
10日ほど前、ゴールデン・ウィーク中にリリースされたもんで、基本、平日更新の本ブログでは紹介のタイミングを逃したままになっていたところ、連休明けに国内流通盤が出たり、ラフ・トレイドのショップからデモ5曲入りのボーナスCD付きエクスクルーシヴ・エディションが届いたり、いろいろうれしさが持続しているので(笑)、遅ればせながら、やっぱ紹介しておくことにしました。
ご存じ、グラスゴーのインディ・ポップ・バンド。2001年から2013年にかけて5枚のオリジナル・アルバムを着実にリリースしてきたものの、2015年にキーボードのキャリー・ランダーが他界したことで、以降しばらくバンド活動を休止。どうなるのかなぁ…と、ファンは心ざわつかせていたわけですが。
ベル&セバスチャンがかつてキュレートしていたフェス“ボウリー・ウィークエンダー”の20周年を記念して2019年に行なった地中海クルージング・フェス“ボーティー・ウィークエンダー”に招待されて出演したあたりをきっかけに、地元グラスゴーでウォームアップを兼ねた復活ソールドアウト・コンサートを開いたり。ちょっとずつ動きを見せ始めて。
で、いよいよ10年ぶりの新作アルバムも完成した、と。そういうわけです。現在のカメラ・オブスキュラのラインアップは、トレイシーアン・キャンベル(ヴォーカル)、ケニー・マッキーヴ(ギター/ヴォーカル)、ギャヴィン・ダンバー(ベース)、リー・トムソン(ドラム)。
オープニングを飾る「リバティ・プリント」が流れ出してきたとたん、懐かしい友だちに出会ったときのような、ふわーっと10年のブランクが霧散して空中に溶けていく感じで。この曲、実は34歳という若さで亡くなったトレイシーアンのお兄さんについて書かれたものらしく。ピアノだけをバックに他界したキャリー・ランダーに歌いかけた「シュガー・アーモンド」(最後の“Won't you sing to me, Carey?”って歌詞で一気に涙腺が…)ともども、死別とそれがもたらす悲壮感をアルバム全体に静かに漂わせてはいるのだけれど。
でも、どの曲もけっして重くならず。軽やかで、キュートで、それだけにむしろほろ苦く、切なくて。ぐっときます。「リバティ・プリント」のビデオ・クリップも泣けます。
以前、『レッツ・ゲット・アウト・オヴ・ジス・カントリー』(2006年)と『マイ・モードリン・キャリア』(2009年)をプロデュースしたヤリ・ハーパライネンと再びタッグ。オールディーズ風味が心地よいエヴァーグリーンなメロディ・センスと今どきのインディ・ポップ感覚が絶妙に交錯するカメラ・オブスキュラならではの音作りのテンプレートが、歳月を経てもなお有効であることをきっちり証明してくれた感じ。
随所にドラム・マシーンを使ったり、ギターに不思議なエフェクトをあしらったりはしているけれど。でも、全編とことんアナログな、温かい質感に貫かれていて。ペダル・スティール、ハモンド・オルガンなどの響きも効果的。思いの外、往年のポップ・カントリー的なテイストへこれまで以上に接近しているあたり、旧世代ポップス・ファンとしては喜びもひとしおだ。うれしい限り。