Disc Review

Rogue Blues / Nick Gravenites (M.C. Records)

ローグ・ブルース/ニック・グラヴィナイティス

この人、マイケル・ブルームフィールドのマブダチとして、あるいはエレクトリック・フラッグのリード・ヴォーカルとして、はたまたバタフィールド・ブルース・バンドの「ボーン・イン・シカゴ」や「イースト・ウェスト」、ジャニス・ジョプリンの「素晴らしい世界に(As Good as You've Been to This World)」「ワーク・ミー、ロード」「生きながらブルースに葬られ(Buried Alive in the Blues)」などの作者として、1960年代末から1970年代アタマくらいにアメリカのブルース・ロックものを聞いていた音楽ファンの間ではけっこう知名度高いと思う。

個人的には、ブルーワー&シップレー、1970年のヒット・シングル「人生の道(One Toke Over the Line)」のプロデューサーとしても記憶にしっかり刻まれている人なのだけれど。

不思議なことに、昔からカタカナ表記がずっと“ニック・グレイヴナイツ”のままなんだよなぁ…。まあ、普通そう読んじゃうし。ぼくも中学生時代にこの人のことを知ってからずっと、けっこう最近までそう信じてきた。後年、いろいろなアルバムのライナーノーツを書かせていただくようになってからもずっと“グレイヴナイツ”って表記してきたものです。

ただ、数年前、YouTubeでこの人のインタビューとか見たら、本人は“ニック・グラヴィナイティス”って名乗っていて。おー、そうだったのか、と。長年の間違いに気づいた次第。日本のレコード会社って海外アーティストの正しい発音の仕方とか、本人に確かめたりしないのかな。

と、そんなニック・グラヴィナイティスさん。新作アルバム、出ました! 1938年10月生まれなので、現在85歳。素晴らしい。ただし、今さら日本でのカタカナ表記は変えられないようで。この新作、間もなく国内盤(Amazon / Tower)も出るのだけれど、カタカナ表記は“グレイヴナイツ”のままでした。とはいえ、こればかりはさすがに間違いが激しいので、ピーター・バラカンさんほどカタカナ表記にうるさくないぼくも(笑)、ここでは“グラヴィナイティス”って書きますね。

2022年から23年にかけて録音されたという新作。発売元のM.C.レコードのサイトに載っていた情報によると8年ぶりのリリースということだけど、8年前に出たアルバムってのをぼくは知りません(笑)。ライヴが何作か出ていた気がするけれど。個人的には1999年の『キル・マイ・ブレインズ』以来かも。

長年の相棒、ピート・シアーズ(ピアノ、アコーディオン、べース)とジャケット・デザインをしたトーマス・イエーツが共同プロデュース。60年来のブルース仲間、チャーリー・マッスルホワイト(ハーモニカ)をはじめ、ジミー・ヴィヴィーノ(ギター、マンドリン)、バリー・スレス(ギター、ペダル・スティール)、ワリー・イングラム(ドラム)、チェンバーズ・ブラザーズのレスター・チェンバーズ(ハーモニカ)、ロイ・ブルーメンフェルド(ドラム)、ウィラード・ディクソン(クラリネット)、キース・ブラッツ(スーザフォン)らがバックを固める。

詳しくはわからないのだけれど、オープニングを飾るハウリン・ウルフの「プア・ボーイ」のカヴァー以外がオリジナルみたい。最近よくライヴで披露されているレパートリーだとか。3コード〜12小節形式のブルースばかりでなく、アルバム後半に向かって周辺の多彩なパターンが顔を出す。楽しい。

ブルースの世界では白人というだけでニセモノ呼ばわりされることもあったようだけれど、60年以上これを貫いてきたのだから。黒人だとか白人だとかに関係なく、ニック・グラヴィナイティスがポール・バタフィールドやマイケル・ブルームフィールドらとともにアメリカン・ブルースの規範を作り上げた偉人のひとりであることは間違いなく。そういう者にしか作り得ない渋い味にじわじわやられる1枚です。

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