Disc Review

Feel So at Home / Walter “Wolfman” Washington (Tipitina’s Record Club)

フィール・ソー・アット・ホーム/ウォルター“ウルフマン”ワシントン

ちょうど1年前、79歳で亡くなったニューオーリンズ系のブルース・ギタリスト&ヴォーカリスト、ウォルター“ウルフマン”ワシントン。

遺作、出ました。

1950年代からアーニー・Kドー、リー・ドーシー、アーマ・トーマス、ジョニー・アダムスらのサイドマンとして着実な活動を続け、やがて1980年代からはソロ・アーティストとしてもアルバム・リリースを開始。ブルースだけにとどまらない、ファンク、R&B、ジャズなどの要素も積極的に採り入れた柔軟な音作りがごきげんだった。1990年代には来日もしてくれたっけ。

が、去年の3月、扁桃腺がんと診断され闘病生活に。12月、他界。そんな彼がここ数年、レコーディングを続けていた最後のアルバムが本作『フィール・ソー・アット・ホーム』だ。2018年に出た前作『マイ・フューチャー・イズ・マイ・パスト』が完成した直後からスタジオ入り。闘病中の歌声も含まれる、まさにウルフマンからのラスト・メッセージだ。

ギャラクティックのベン・エルマンがプロデュース。ジェイムス・シングルトン(ベース)とスタントン・ムーア(ドラム)が前作から引き続きバックアップ。さらにスティーヴ・ディトロイ(キーボード)、ベン・エルマンの従兄弟にあたるニック・エルマン(ホーン・アレンジ)、リック・G・ネルソン(ストリングス)、ジョン・マイケル・ローシェル(エレクトリック・シタール)らも参加。もちろんヴォーカルとギターはウォルター“ウルフマン”ワシントンだ。

ミシェル・ワイリーが1977年にリリースした切なくスウィートなミディアム・ソウル・バラード「アイ・フィール・ソー・アット・ホーム・ヒア」のカヴァーで幕開け。恋人一歩手前のお相手の家でくつろぐ女性の思いを綴ったオリジナル・ヴァージョンを、ワシントンは終の棲家的な、人生の安らぎを描いた曲へと生まれ変わらせている。素晴らしいオープニングだ。ストリングスも、ホーンも、シタールも、すべてが美しい。が、何より胸に響くのがワシントンの歌声とギターだ。

続く「ウィズアウト・ユー」は1986年のアルバム『ウルフ・トラックス』に収められていたジャジーなオリジナル曲の再演。「アロング・アバウト・ミッドナイト」はワシントンの叔父にあたるギター・スリムが1956年にリリースしたニューオーリンズ・ブルースのカヴァー。

で、次の「ラヴリー・デイ」が本作のハイライト。ワシントンが1981年にリリースしたファースト・ソロ・アルバム『リーダー・オヴ・ザ・パック』収録の自作曲の再演だ。大切な人と過ごしてきた幸せな時間を慈しむように思い起こす曲だけれど、扁桃腺がんを宣告された直後、声が枯れてしまう前に…と、エルマンのスタジオで急遽レコーディングされたものだとか。

バック演奏を録り終えた後、普通にヴォーカル・ブースに入って歌をダビングしようとしたものの、体調のこともあってなかなかうまくいかず。そこで、プロデューサーのエルマンと奥さまのミシェルがいるコントロール・ルームに移り、マイクを立て、ソファに座って、ヘッドフォンも外し、スピーカーからオケを流しながら、照明を落として録音した歌声。淡々とした表情に胸が締め付けられる。きっと誰もがこれを最後の録音したくないと願っていたはずだけれど。結果、ソロ・キャリアの幕開けを飾った1曲でワシントンは長いキャリアを連環させることになったわけだ。

続く「ブラック・ナイト」は1951年のチャールズ・ブラウン作品のカヴァー。「サファリン・マインド」はギター・スリムの1954年作品。「イッツ・レインニン・イン・マイ・ライフ」は1987年のワシントン自作曲の再演。「アイヴ・ビーン・ロング・ソー・ロング」はボビー“ブルー”ブランド、1961年のレパートリーのカヴァーだ。

ニューオーリンズを代表するミュージック・バー“ティピティーナズ”が運営しているマニアックなレコード・クラブからの限定リリースなので、特にLPは入手がちょっと面倒かもしれないけれど。ストリーミングもされているので、偉大なウルフマンをみんなで偲びましょう。

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