カートウィーリング:ライヴ・イン・メンフィス/ヴァン・デューレン&グッド・クエスチョン
ヴァン・デューレンに関しては本ブログでも過去何度か取り上げたことがあって。
2020年に米オムニヴォア・レコーディングズが、ついに、めでたく、1978年のファースト・アルバム『アー・ユー・シリアス?』をオリジナル・フォーマットで正式再発した際のエントリーで書いたことを改めて引用しておくと——
ヴァン・デューレン。テネシー州メンフィスを本拠にするパワー・ポッパーだ。同郷のビッグ・スターやスクラフズ、トミー・ホーエンといったアーティストと同じ分野の同輩ということになるのだけれど。
ビッグ・スターの解散後、メンバーだったクリス・ベルとジョディ・スティーヴンスがベイカー・ストリート・レギュラーズ(“イレギュラーズ”ではないですw)というバンドを組んだ際、その一員として活動していたこともある。この短命に終わったバンドではレコードを出せずじまいだったけれど、その後、ローリング・ストーンズの初期のマネージャーとしておなじみ、アンドリュー・ルーグ・オールダムのマネージメントのもと、ソロ・アーティストとして1978年にアルバム・デビューを果たした。
それが(中略)『アー・ユー・シリアス?』。内容は素晴らしくて。ジョディ・スティーヴンスとの共作ひとつを含むオリジナル全13曲、すべてが名曲。“メンフィスのポール・マッカートニー”などと評されるヴァン・デューレンの個性が存分に発揮された1枚だった。が、これがなぜだか、まったく売れずじまい。セカンド・アルバム『イディオット・オプティミズム』も制作されながら、あえなくお蔵入り。
1980年代にグッド・クエスチョンというバンドを組んで「ジェーン」というローカル・ヒットを放ったことがあったり。トミー・ホーエンと組んでアルバム制作をしてみたり。断続的にいろいろやってきてはいるけれど、結局のところ、アレックス・チルトン/ビッグ・スターのようにカルトかつ熱狂的な支持を得ることもできないまま歴史に埋もれてしまっていた。
という具合で。素晴らしい個性なのに一般的な注目を集めることができないまま、時の流れの中に埋没していってしまった悲劇のパワー・ポッパーなわけですが。このほど、前引用の最後のほうに出てきたグッド・クエスチョンというバンドを率いていた時期の未発表ライヴが、またまたオムニヴォア・レコードから発掘リリースされたので、大喜びでご紹介です。
グッド・クエスチョンとしては1986年に1枚だけ、『シン・ディスガイズ』というアルバムをリリースしていて。引用文でも触れている通り、そこからシングル・カットされた「ジェーン」という曲が地元メンフィスでローカル・ヒットを記録したりはしているとはいえ、これまたセールス的には今ひとつパッとせず。セカンド・アルバムの制作にとりかかったのはその5年後、1991年になってからだった。
結果から言ってしまうと、このセカンド・アルバムもまたリリースされることなくお蔵入りしてしまうことになるのだけれど。その制作の途上、1992年1月に記録されたのが今回お目見えした『カートウィーリング:ライヴ・イン・メンフィス』だ。
なんでも、メンフィスの友人たちを招いて小さなライヴ会場で新しいアルバムの素材を披露するために行なったパフォーマンスらしく。もちろん以前のレパートリーも含まれていて。たとえば、「ザ・ラヴ・ザット・アイ・ラヴ」は1978年のソロ『アー・ユー・シリアス?』の収録曲。「テネシー、アイム・トライング」がこのライヴの時点ではまだ正式リリースされていなかった1980年のセカンド『イディオット・オプティミズム』より。で、「フール・フォー・ザ・フェイス」「ジェーン」「ザ・ネイキッド・アイ・オヴ・ラヴ」の3曲が1986年のグッド・クエスチョンによる『シン・ディスガイズ』より。「ガット・トゥ・ゲット・ユー・イントゥ・マイ・ライフ」はご存じ、ビートルズのどストレートなカヴァー。
で、それ以外がどうやらこの時点でレコーディングを目論んでいたグッド・クエスチョンのセカンド・アルバムの収録予定曲ということのようだ。「ア・マン・ウッド・ビー・クレイジー」は1992年に出た『サン・スタジオ・レヴューVol.1』ってコンピに入っていたっけ。この曲、好きだったな。
このライヴが収録された1992年1月というと、ニルヴァーナの『ネヴァー・マインド』がバカ当たりしていたころで。ヴァン・デューレン&グッド・クエスチョンのようなパワー・ポップ系のサウンドがどの程度一般的な説得力を放っていたのかはわからないけれど。でも、グッド・クエスチョンの面々はごきげんに熱演。バンドの編成は、ヴァン・デューレン(ヴォーカル、ギター、ピアノ)、ジェイムス・ロット(ギター)、レイ・サンダーズ(ベース)、ジョエル・ウィリアムス(ドラム)。そこにゲストとしてリック・ステフ(キーボード)が加わり、ホーンのフレーズをはじめ様々な彩りを加えている。観客は少ないものの、仕上がりはなかなかです。
正直言って、ここまで何やっても裏目裏目だとヴァン・デューレンも迷っていたのかなぁ…的な? オープニングを飾る「イズ・シー・エヴァー」とか、売れ線エイティーズ・ロックっぽい感じで。いきなり複雑な気分になったりもするのだけれど。30年も経ってしまえばその迷いも愛おしい。そんな微妙な曲も含めて、ヴァン・デューレンが単に趣味性の高いパワー・ボッパーというだけにとどまらない、なかなか骨太なロッカーだったのだなという事実を改めて思い知らせてくれるパフォーマンスではあります。