Disc Review

Cousin / Wilco (dBpm)

カズン/ウィルコ

本ブログでウィルコの新作を取り上げるたびに繰り返していることだけれど。ぼくはとにかく『ビーイング・ゼア』でウィルコにドハマリしたタイプのウィルコ・ファンなもんで。オルタナ・カントリー・バンドとしての彼らが今でも大好き。完全に『ビーイング・ゼア』>『ヤンキー・ホテル・フォックストロット』。

と、そんな初期ウィルコ・ファンではあるものの。それでもやっぱり新作が出るのはこの上なくうれしくて。今回も盛り上がっております。来春の来日を前に届けられた13作目のスタジオ・アルバム『カズン』。

今回びっくりしたのはプロデューサー・クレジットだ。これまでは共同名義であっても必ずウィルコ、あるいはジェフ・トゥイーディの名前がクレジットされていた。ジム・オルークの影響が圧倒的に思えた『ヤンキー・ホテル・フォックストロット』ですらプロデューサー名は“ウィルコ”だった。

でも、今回のプロデューサー・クレジットは“ケイト・ル・ボン”単独名義。ウィルコ史上初。まあ、“アディショナル・プロダクション”という形でジェフ・トゥイーディとトム・シックの名前も並んではいるけれど。とにかく、思いっきり身を預けたってことか。

というわけで、過去の諸作以上に、クールで、精緻で、周到に編み上げられた印象。ケイト・ル・ボンもキーボードやコーラスで演奏に参加していて。彼女も含めたメンバー全員の演奏のタッチがとてもアーティスティックだ。ノイズまできわめて繊細にコントロールされている。前作『クルエル・カントリー』でバンドっぽいライヴ感に立ち返ろうとしてみせたウィルコだったけれど、今回はよりデリケートなスタジオワークというか、ケイト・ル・ボンの助けを借りつつレコーディング・アート方面にそれなりに振れてみせた感じ。

YouTubeの『トゥイーディ・ショー』とかで披露ずみの本作収録曲のデモ・ヴァージョンを聞いていると、どの曲にもトゥイーディならではのメロウなフォーク・ロック感覚が活きていて。さて、それじゃこのケイト・ル・ボンのプロダクションが果たして楽曲そのものにとって正解だったのか、微妙な気もしてくるわけですが。その辺はまあ、ぼくが個人的に超お古いタイプのウィルコ・ファンだからだな。すんません。

最初は“あれ?”と思った曲でも聞き続けていくうちに離れがたくなってくるというのが、おなじみウィルコ・マジック。なので、現段階で物足りなく感じている曲でも、その魔法がいつしかがっつり効いてきそうではある。

歌詞はざっと聞いた限り、かなり内向きかも。惨劇だらけの世の中で他者といかにつながっていけばいいのか。逡巡の果てに浮かび上がる喪失感とほのかな希望…。あ、いや、なにせアルバムを聞き始めたのが昨深夜なので、まださっぱりわかってませんが(笑)。とはいえ、つながりのないワードを結びつけながら不思議なイメージや感情を喚起するトゥイーディらしい異化効果ワザは健在だ。

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