ムーン・ベイジング/レズリー・ダンカン
エルトン・ジョンに見出された英国女性シンガー・ソングライターの草分け…とか。そう紹介されることが多いレズリー・ダンカン。もちろんそれで間違いではないのだけれど。
1960年代にレズリー・ダンカン&ザ・ジョーカーズ名義でデビュー。けっこうたくさんシングルをいくつかのレーベルからリリースしたもののほとんど売れず。むしろダスティ・スプリングフィールド、マデリーン・ベル、デイヴ・クラーク・ファイヴ、ドノヴァンなどのバック・シンガーとしての裏方仕事で売れっ子に。そんな中でエルトン・ジョンとも出会い、彼女の作った「ラヴ・ソング」をエルトンが1970年のアルバム『エルトン・ジョン3(Tumbleweed Connection)』でカヴァー。それをきっかけに改めて1969年、英CBS/コロムビアと契約。日本でも人気の高い初期2作のフル・アルバムをリリースすることになった、と。
でも、本人にあまりソロ・パフォーマーとして売れる気がなかったようで。しかもステージ恐怖症気味だったらしく、その後も並行してセッション・シンガーとしての活動を継続。ピンク・フロイドの『狂気(The Dark Side Of The Moon)』でバック・コーラスを披露していることはおなじみだと思う。『ジーザス・クライスト・スーパースター』のサウンドトラックでも歌っていた。アラン・パーソンズ・プロジェクト、1979年のアルバム『イヴの肖像(Eve)』では「イフ・アイ・クッド・チェンジ・ユア・マインド」のリード・ヴォーカルをとったりも。
というわけで、この人の場合、いかにも1970年代っぽいシンガー・ソングライター的なナチュラルでフォーキーな手触りの人というのではなく、セッション・シンガーとして幅広く活躍できる柔軟な感性を持ち合わせたアーティストというか。そっちが本質みたいなところがあって。そういう意味では、人気の高い初期2作——まあ、もちろんぼくも大好きではあるのだけれど、あっちよりも1974年にCBSを離れてGM/MCAレコードに移籍してからの諸作のほうが、よりポップで、バラエティに富んでいて、本来のレズリーさんっぽいのかな、なんて思ったりもするのでありました。
なので、1975年にリリースされた通算4作目、GM移籍第2弾にあたる本作『ムーン・ベイジング』とか、まじ大好きだった。当時の結婚相手でもあったジミー・ホロヴィッツのプロデュースの下、元クリッターズでカーリー・サイモンとかと共作したりもしていたジム・ライアンや、クリス・スペディング、アンディ・ブラウンやロニー・レインらのサポートでもおなじみ“ファンキー・フット”ことグレン・ルフルールなどがバックアップ。
この時期、アメリカではキャロル・キングやジョニ・ミッチェルらがこぞってクロスオーヴァー〜フュージョン系のミュージシャンを起用してちょっとジャジーな要素も取り込んだニュー・ソウル的な音作りを聞かせるようになっていたのだけれど、それにイギリス側から対応してみせたような仕上がりで。
まあ、5〜6年前に日本で世界初CD化が実現していたり、GMレコード在籍期に録音されたオリジナル・アルバム3作の全曲にボーナス音源などをたっぷり追加した3枚組アンソロジーが2019年に編まれて、それが普通にストリーミングもされているので、音だけならば問題なく聞ける状態ではあるものの。やはり紙ジャケでの単体再発というのはちょっとうれしいので、今回の再発、改めてピックアップ。今年の1月に韓ビッグ・ピンクが再発したものを、このほどヴィヴィド・サウンドが日本発売してくれましたー。しゃちょー、うれしいー。