ザ・フーラー/ニック・ウォーターハウス
出ました! 2021年4月リリースの『プロムナード・ブルー』以来だからちょうど2年ぶりか。いまだ2019年の来日公演の飄々とした味わいが忘れられないニック・ウォーターハウスのフル・アルバム6作目。
2012年にデビュー・アルバムをリリースして以来10年以上の歳月が過ぎて。この人のレトロ志向も年季が入ってきた。というか、さらにコジれてきちゃったというか。そういう感じ。いい意味で。ほんと、もう単なるレトロ・ソウル系のアーティストではなくなってしまったかも。
カリフォルニア州サンタ・アナ生まれで、これまではサンフランシスコを本拠に活動してきたニックさんだけれど、最近はフランスに居を移したのだとか。そこで改めて自身の内面とかルーツとかを見つめ直して、いろいろ思うところがあったらしく。それもあってか、今回のアルバム、これまでとちょっと風合いが違う。
前作はポール・バトラーを共同プロデューサーに迎えたメンフィス録音だったけれど、今回はブラック・キーズなどとも仕事しているマーク・ニールとタッグを組み、彼がジョージア州ヴァルドスタに所有している“ソウル・オヴ・ザ・サウス・スタジオ”に出向いてのモノラル・レコーディング。元々はバレー・スクールだったのを改造した小さなスタジオらしいのだけれど、メンフィスの名門、チェス・スタジオやサン・スタジオの伝統を継承しようという心意気に貫かれた場所らしく、きっとニックさんも盛り上がったことでしょう。
フランスとかジョージア州とか、西海岸育ちの彼にとってある種エキゾチックな環境の下、憧れのエヴァーグリーンなソウル・センスみたいなものをより対象化して眺めることができるようになったというか、自分らしく消化できたというか。
今回のニックさん、リッキー・ネルソンのようだったり、ロイ・オービソンのようだったり、初期ヴァン・モリソンみたいだったり、ヴェルヴット・アンダーグラウンドみたいだったり、ミンク・デヴィルみたいだったり、ニック・ドレイクみたいだったり…。往年のロックンロール、ロードハウスR&B、フォーク・ロック、テックス・メックスなど、さまざまな時間軸とか記憶とかをたどる旅が地理的なエキゾチシズムともうまく交錯しつつ、なんとなく未来を見据える眼差しにもつながっているようで、なんだか面白い。それらがどことなく往年のモダニズムっぽいような、ヌーヴェルヴァーグっぽいような色彩の下に共存していて。
不思議な立ち位置に足を踏み入れたのかも。歌詞も面白そうだから、少し突っ込んで味わってみたい。キャッチーなとっつきやすさはなくなったけれど、ちょっとやばめな吸引力を放つアルバムに仕上がってます。