アットCo&Ce:ザ・コンプリート・シングルズ&モア/ザ・ヴォーグス
昨夜、東京・新宿のロック・カフェ・ロフトで開催した久々の有観客CRT。たくさん集まってくださってありがとうございます。新型コロナ禍でレギュラー開催ができなくなった2020年以来、まあ途中、横浜ネイキッド・ロフトや渋谷ロフト9で数回、有観客イベントを行なったり、ロック・カフェやロフト・ヘヴンなどから無観客イベントを配信させてもらったり、あれこれ不定期で試行錯誤を続けてきましたが。
やっぱり同じ空間をみなさんとともにしつつ、大きな音でごきげんな音楽を直に共有するのは楽しいですね。改めて確信しました。これをまた定期的に続けて行けたら最高です。今回は来日直前のボブ・ディランをテーマにお届けしましたが、次回は3月23日、同じ新宿ロック・カフェ・ロフトでジョニ・ミッチェルをテーマに盛り上がる予定。詳しいもろもろが決まり次第またお知らせしますので、ご興味ある方、ぜひいらしてください。
というわけで、今朝はちょっと寝坊気味で遅めのブログ更新です(笑)。取り上げるのは、またまた再発ものですみません、山下達郎さんも大好きと公言していらっしゃったザ・ヴォーグス!
この人たちに対するイメージも、リスナーそれぞれ、最初に接した曲によって大きく二つに分かれるのかも。ママス&パパスやタートルズあたりに通じるフォーク・ロック・グループのひとつとしてとらえる人と、ハプニングスやカジノスなどに通じるMOR系ポップ・コーラス・グループのひとつととらえる人と――。
ヴォーグス自体、1968年、それまで在籍していたCo&Ceレーベルを離れてリプリーズと契約する時期あたりを境に自らグループとしての性格を変化させているわけで。どちらのイメージも正解ではあるのだけれど。そんなふうに“二つの顔”を持つせいで、特に日本ではヴォーグスに対する評価が今ひとつ明快な形で定まっていないような気もする。とても残念です。
メンバーはビル・バーケット(リード・ヴォーカル)、ヒュー・ゲイヤー(ファースト・テナー)、チャック・ブラスコ(セカンド・テナー)、ドン・ミラー(バリトン)の4人。子供のころから友達だったという彼ら4人は地元のピッツバーグ州タートル・クリークのハイスクールに通っていた1958年、“ザ・ヴァル・アイリス”というヴォーカル・グループを結成した。そこそこのローカル・ヒットも出て、ドリフターズ、プラターズ、デルズなどとテレビ出演したこともあったとか。
ハイスクールを卒業後、メンバーはそれぞれ軍隊に入ったり、大学に進学したり。でも、結局4人で再び集まり活動再開。同じ地元のルー・クリスティをスターにしたニック・センシのプロデュースの下、レコーディングすることになった。曲はイギリスの人気シンガー、ペトゥラ・クラークアルバム『ザ・ニュー・ペトゥラ・クラーク・アルバム(米タイトル:アイ・ノウ・ア・プレイス)』に収められていた「ユーアー・ザ・ワン」。クラーク自身が作曲し、彼女にたくさんの名曲を提供してきたトニー・ハッチが作詞を手がけたフォーク・ロック調の1曲だった。
実はニック・センシ、このペトゥラ・クラークのアルバム・トラックを聞いてヒットを確信。この曲をアメリカでカヴァーしてシングル・リリースするのに適した“声”を探していたのだとか。実際、ピッツバーグの別バンド、ザ・ラケット・スクワッドに歌わせたヴァージョンも録音ずみだった。が、そんな中、出くわしたのがヴァル・アイリス。彼らのデモ・テープを耳にしたセンシは、ビル・バーケットのほうがこの曲を効果的に歌えるはずだと確信し、ラケット・スクワッドが演奏したオケを流用して歌声だけ入れ替えてヴァル・アイリス・ヴァージョンを完成させた。
この音源をまずインディ系のブルー・スター・レコードからリリース。その後、グループ名をザ・ヴォーグスと改めて契約した“Co&Ce”レーベルから全米発売が実現し、見事全米チャートで最高4位まで上昇するヒットを記録した。1965年といえば、ザ・バーズの「ミスター・タンブリン・マン」やバリー・マクガイアの「イヴ・オヴ・デストラクションズ」などが相次いで全米ナンバーワンに輝き、フォーク・ロック・ブームが巻き起こっていた時期。ヴォーグスの「ユーアー・ザ・ワン」もその流れに見事に乗っかって大ヒットした、と。ニック・センシの目論見は大当たりしたわけだ。おかげでペトゥラ・クラーク自身もあわててオリジナル・ヴァージョンを後追いシングル・カットしたほどだった。
続いてヴォーグスは、ディッキー・リーの「アイ・ソー・リンダ・イエスタデイ」などのヒットで知られる南部のソングライター、アレン・レイノルズのペンによる「ファイヴ・オクロック・ワールド」をシングル発売。やはりフォーク・ロック調の12弦ギターをフィーチャーした最新型サウンド、サム・クックの「チェイン・ギャング」からヒントを得たという不思議なかけ声、エキゾチックなヨーデル調のヴォーカルなど、キャッチーな要素をふんだんに盛り込んだ仕上がりが大いに受け、これまた翌1966年にかけて全米4位に達するヒットとなった。
当時のアメリカのラジオ局は、流行しているフォーク・ロックをたくさんかけたいものの、フォーク・ロックの中には放送に適さない激しいプロテスト・ソングも多く二の足を踏んでいたのだとか。そんなラジオ局にとってヴォーグスのレコードは救いだった。サウンドは完全にフォーク・ロック調なのに、歌詞は従来のポップ・ソングふう。やはり1966年に「夢のカリフォルニア(California Dreamin’)」を全米1位に送り込んだママス&パパスなどと同様、ヴォーグスは“安全なフォーク・ロック・グループ”としてラジオ局から歓迎され、見事スター・グループの仲間入りを果たした。
その後、バリー・マン&シンシア・ワイル作の必殺曲「マジック・タウン」をはじめ、のちにダスティ・スプリングフィールドの名曲「サン・オヴ・ア・プリーチャー・マン」などを生み出すことになるジョン・ハーリー&ロニー・ウィルキンス作の「ザ・ランド・オヴ・ミルク・アンド・ハニー」がトップ40ヒット。アメリカのガレージ・ポップ~フォーク・ロック・シーンの代表グループとしての地位を確実なものに。
とはいえ、その分野の他のアーティストたちと違って、ヴォーグスは洗練されたコーラス・ハーモニーという武器を持っていた。フォーク・ロック調のヒット・シングルのB面やアルバム収録曲には彼らがかつて1950年代末~60年代初期に手がけていたようなオーソドックスなホワイト・ドゥーワップふうの曲も多かった。
そこでヴォーグスは少しずつイメージ・チェンジ。続くシングルでは、1951年にジョニー・レイが、1959年にはトミー・エドワーズがそれぞれヒットさせたポップ・スタンダード曲「プリーズ・ミスター・サン」をカヴァーし、彼ら本来のヴォーカル・グループとしての魅力を打ち出そうと試みた。が、そんな目論見ははずれ、シングルは全米48位どまり。さらに、のちにバブルガム・サウンドの立役者として一時代を築くジョーイ・レヴィン&アーティ・レズニックのペンになるポップ・ソウル曲「ザッツ・ザ・チューン」も全米99位。ヴォーグスのイメージ・チェンジ作戦は失敗に終わり、彼らは低迷期に突入してしまう。
ちなみに、彼らがCo&Ceレーベルに残した最後のシングルは、1970年代に入ったころフォーチュンズ、ホワイト・プレインズなどイギリスのポップ・ヴォーカル・グループに多くのヒット曲を提供することになるロジャー・クック&ロジャー・グリーナウェイのペンによる「ラヴァーズ・オヴ・ザ・ワールド・ユナイト」だった。これはヒットチャートに姿を見せずに終わってしまったものの、レヴィン&レズニックの起用にせよ、クック&グリーナウェイの起用にせよ、ヴォーグスの感覚は時代よりもほんの少しだけ早すぎたのかも。そういえば、たとえばカジノスの「ゼン・ユー・キャン・テル・ミー・グッドバイ」のようなスムーズなポップ・コーラス・ヒットが多く生まれるようになるのも1967年に入ってからのことだった。リリースが1年遅ければ「プリーズ・ミスター・サン」もより大きなヒットになっていた可能性もありそう。
そのカジノスをはじめ、ハプニングス、アソシエーション、レターメンなどの活躍により、激しいフォーク・ロック調のビートではなく洗練されたコーラス・ハーモニーの魅力を楽しむ気運が全米ヒットチャート上にも徐々に浸透していくことになって。ヴォーグスも心機一転。リプリーズ・レコードへと移籍して本格的ポップ・ヴォーカル・グループとして再スタート。1968年以降、「マイ・スペシャル・エンジェル」「ティル(愛の誓い)」「ノー・ノット・マッチ」など、MOR的なハーモニー・ポップものをヒットさせていくことになるわけだけれど。
その前まで。Co&Ceレーベル在籍期に彼らが残した8枚のシングルAB面を中心に編まれたのが本作『ザ・ヴォーグス・アットCo&Ce:ザ・コンプリート・シングルズ&モア』だ。この時代のヴォーグスのコンピというと、1996年にヴァレーズ・サラバンドが編纂した16曲入りのCDが最高の内容だったけれど、すでに廃盤。でも、オムニヴォア・レコーディングズが編んだ本作はそれよりも多い23曲入り。充実してます。いろいろなWebショップをチェックしてみるとフィジカルの発売は3月10日となっているところが多い。けど、すでにサブスクのストリーミングは始まってます。ぼくもまだブツは入手できていないのでとりあえずサブスクで楽しんでます。
定評あるリー・ロディガとケイリー・E・マンスフィールドがコンパイルして、マイケル・グレイヴスがリマスター。フィジカルのほうにはスコット・シンダーによるメンバー公認の新たなライナーも付いているそうだし。それも楽しみ。もう、ばっちりじゃん。祈・再評価!