ピロウズ&プレイヤーズ:チェリー・レッド・レコード1981〜1984(40周年記念エディション)/ヴァリアス・アーティスツ
近年は様々な個性的レーベルを傘下に収めながら、見逃せない音源発掘/編纂作業に邁進している感じの英チェリー・レッド・レコード。本ブログでも、これとか、これとか、これとかをはじめ、たくさんのチェリー・レッド系再発をご紹介しているけれど。
ご存じの通り、もともとチェリー・レッドは1978年、イアン・マクネイが設立したインディ・レーベルで。当初はデッド・ケネディーズとかモノクローム・セットとかフェルトとかエヴリシング・バット・ザ・ガールとか、ネオアコ系、ギター・ポップ系を中心に多彩な意識高めのニュー・ウェイヴものをリリースするレコード会社だった。
そんな時期、1982年暮れに同レーベルのA&R、マイク・アルウェイがレーベル紹介用のサンプラーとして企画した廉価なコンピレーション・アルバムが『ピロウズ&プレイヤーズ』。日本でも大いに話題になった1枚だ。
いきなりチューニングが合ってるんだか甘いんだか、ジャングリーなのに妙にインナーな吸引力をはらんだギター・ポップ、ファイヴ・オア・シックスの「ポートレイト」で始まって。以降、モノクローム・セット、エヴリシング・バット・ザ・ガール、そのメンバーであるベン・ワットとトレイシー・ソーンそれぞれのソロ、さらにトレイシーが在籍していたマリン・ガールズ、ケヴィン・コイン、ジョー・クロウ、フェルト、ナイチンゲールズ、パッセージ、パンク詩人のアッティラ・ザ・ストックブローカー、作家のクエンティン・クリスプなど様々な音源全17曲が次々登場。
ぼく個人の話で言えば、あのころ全力でアメリカン・オールディーズものにハマり込んでいたこともあり、コンテンポラリーな音楽シーンにあまり興味を持てずにいたのだけれど。そんなぼくでさえ、『ピロウズ&プレイヤーズ』はパンク以降のポップ・シーンを活性化させていたUKインディーズの流れを象徴する新たな個性たちに出会える盤として、ずいぶんと重宝したものだ。お世話になりました。懐かしい。
まあ、ネオアコ、つまり“ネオ・アコースティック”というのは日本で生まれたこれまたテキトーなジャンル名で、あまり厳密な定義があるわけでもなく。フォーク、ソウル、ボサノヴァ、ジャズ、ラテンなど“非ロック”系の音楽スタイルの影響を色濃くたたえた、ちょっとおしゃれで、洗練された、心地よいサウンドとかをざっくり思い描く方も多いと思うけれど。
でも、このアルバムに収められた曲たちこそがネオアコのプロトタイプなのだとすれば、確かにギターでクールなコード進行を奏でながらつぶやくように歌っていても、まだまだアレンジも演奏も歌唱も拙かったりすることも含め、そこには奇妙な緊張感や“静かな反骨精神”のようなものが確実に漂っていて。ああ、ネオアコも間違いなくロックだったんだよなという思いを新たにする。
1984年には日本独自に1982~83年の音源で構成した14曲入りの続編『ピロウズ&プレイヤーズ2〜チェリー・レッド・ストーリー』も登場。2000年にVol.1と2を抱き合わせた2枚組が出たこともあったなー。2007年には25周年記念ボックスも3枚組仕様で、DVDまで付いて、かなり充実した内容で再発されていたけれど。
今回はそんな傑作コンピの発売40周年を記念する最新拡張エディションの登場だ。たっぷり拡張されてます(笑)。
今回も3枚組仕様。ディスク1はオリジナルの『ピロウズ&プレイヤーズ』にボーナス・トラック9曲を加えた『ピロウズ&プレイヤーズ・プラス』。ディスク2は日本独自に編纂された前述『ピロウズ&プレイヤーズ2〜チェリー・レッド・ストーリー』の収録曲を一部変更したうえでボーナス12曲を追加した『ピロウズ&プレイヤーズVol.2プラス』。で、ディスク3はジョン・ピール・セッション音源やアーティスト自身が所有していたデモなどレアものを詰め込んだ『レア、ライヴ、アンリリースト・アンド・ピール』。ここには今回初出の未発表音源が17曲含まれている。
サブスクのストリーミングもされているもんで、今回はぼくも横着してそれで楽しもうかと思っていたんだけど。チェリー・レッドのいつものやり方で、サブスクだと各ディスクそれぞれ曲がちょっとずつ減らされているというか、変更されているというか…。やっぱブツを買わないとダメか。音楽評論家のウィル・ホジキンソンをはじめ、イアン・マクネイとマイク・アルウェイら関係者も関わったライナーも付いているみたいだし。
CD3枚組はハード・カヴァー型。オリジナル・リリース通りの17曲入り1枚ものヴァイナル(Amazon / Tower)もあります。