Disc Review

The Complete Mother's Best Recordings...Plus! / Hank Williams (Time/Life)

ザ・コンプリート・マザーズ・ベスト・レコーディングズ…プラス/ハンク・ウィリアムス

近ごろなんだかんだと忙しく。ブログもほったらかしでしたが。そうこうするうちに毎月恒例、CRTが近づいてきました。今回は、以前からの念願だったハンク・ウィリアムス・ナイト。集客厳しそうなテーマですが(笑)。でも、こういうのがけっこう本音っぽいテーマというか。以前のジョニー・キャッシュ・ナイトとか、ダグ・サーム/テックス・メックス・ナイトとか、ああいうのと同じで。いつも以上に燃えて取り組めるテーマだったりします。

ぼくが高校生だったころ、まあ、今から40年近く前の話だけど(笑)。当時のRCAビクターから“シンギング・ブレーキマン”ことジミー・ロジャースの7枚組だったか8枚組だったかのLPボックスが出て。まだジミー・ロジャースの何たるかとか、全然わかってなかったものの、なんだかこれは絶対に買わなきゃいけないものだって気がして、なけなしの小遣いをはたいて決死の覚悟でそれを買ったことがある。もちろん、その箱には1920年代から30年代にかけて録音された宝のような素晴らしい音源がぎっちり詰まっていて。まじ、買ってよかったんだけど。

ただ、同じころ、ハンク・ウィリアムスの10枚組だか何だかが当時のポリドールから出て。でも、ジミー・ロジャース箱買ってすっからかんなもんだから、そっちが買えなくて。ハンクに関しては結局当時出ていた疑似ステレオの2枚組ベストかなんかで我慢しつつ、ずっとそれを聞いていた覚えがある。懐かしい。自由にレコード買える財力が欲しいなぁと、つくづく思ったものです。まあ、今も同じこと思ってるんだけど…(笑)。

だから、先日アメリカで出たCD15枚組ボックス『The Complete Mother's Best Recordings...Plus!』をオフィシャル・サイトで買って、それが自宅に届いたとき、高校生時代の自分に聞かせてやりたいなぁ、とか、しみじみしちゃいました。この箱、ほんとにかわいくて。1951年のラジオ音源をコンパイルしたものなので、箱も古いラジオ型をしている。前面にプラスティックのつまみがついていて、それをひねるとステーション・コールが鳴ったりして。実に楽しい。内容は、以前ここで書いた未発表曲集のさらなるコンプリート版。まあ、コンプリートと言っても、現存する音源のコンプリートという形で。同じ説明を繰り返すのもナンなので、詳しい事情は以前の文章を参照してほしいのだけれど。

とにかく、そんなハンクの歌声で、ナッシュヴィルの人たちは毎朝、通勤/通学前のひとときを過ごしていた、と。そんな気分を時空を超えて追体験できるボックスセットなわけです。当初はオフィシャル・サイトのみでの取り扱いだったので、あまり積極的におすすめできなかったけれど、徐々にAmazonをはじめいろいろなところでも売られ始めて。値段はともあれ、入手しやすくはなったかも。今度のCRTではこのボックスの魅力もたっぷり爆音で味わう予定なので、試聴器代わりにぜひCRTをご利用ください。今回のCRTはハンク未体験の方にもぜひ参加していただきたいです。毎度のお知らせで恐縮ですが、左の情報欄を参照のうえ、こぞって、ひとつ。

ハンクはほんと、かっこいいから。よく、黒人のブルースと白人のカントリーが融合してロックンロールが誕生した…とか、大ざっぱに説明されていて。ぼくもずいぶんと長い間、その程度の乱暴な説明で十分に納得してきたものだけれど、そうした大ざっぱな表現に感じられる“それまで互いに相容れなかった両極の音楽要素が一気に合体してロックンロールという新奇な音楽形態が生まれた”といったイメージは、どうやら事実とはだいぶ違うようだ、と。そんな事実をハンク・ウィリアムスの歌声は教えてくれる。50年代半ばにロックンロール人気が爆発する以前から、ハンクはすでにロックンロール的なグルーヴを存分に体現してみせていた。49年の「マイ・バケッツ・ガット・ア・ホール・イン・イット」や50年の「モーニン・ザ・ブルース」あたりは、ブルース・シンガーとしてのハンクの資質を今なお雄弁に伝えてくれるし、47年の初ヒット曲「ムーヴ・イット・オン・オーヴァー」で聞かれるジーク・ターナーのギター・ソロは確実にのちのロカビリーの出現を予感させる。49年の代表曲「ラヴシック・ブルース」や50年の「ロング・ゴーン・ロンサム・ブルース」で披露される悲しげなヨーデルがのちのエルヴィス・プレスリーやバディ・ホリーらの歌唱に大きな影響を与えたことは疑いようがない。

カントリーは保守的な音楽、と単純に決めつけている人たちにも、ハンクの持っているやばい感触みたいなものを再認識してもらいたいです。このやばい感触と敬虔なゴスペル感覚とが分かちがたく共存しているところも、ジョニー・キャッシュやエルヴィス・プレスリー、ボブ・ディラン同様、アメリカ音楽の深さを思い知らせてくれる部分だったりして…。

あ、あとひとつ告知を。10月17日に通常通り Naked Loft で開催するCRTのあと、10月23日には阿佐ヶ谷の Loft A で出張版CRTがあります。以前、好評だったジャズ・ナイトの続編。前回と同じくスウィンギン・バッパーズのアルトサックス奏者としてもおなじみ、渡辺康蔵氏をゲストに迎えて、前回のジャズ・ナイトではあえて取り上げなかった巨人、マイルス・デイヴィスを徹底特集します。なんでも阿佐ヶ谷ではこの時期、街をあげて“阿佐ヶ谷ジャズストリート”なる面白そうな催しをやっているらしく。そこにわれわれも参加させていただく形になってます。詳しくは Loft A のホームページへ。CRTスタンプカード、または阿佐ヶ谷ジャズストリート共通パスポートをお持ちの方は200円割引です!

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