フィール・ライク・ゴーイング・ホーム/ミコ・マークス&ザ・リザレクターズ
15年ちょい前、この人がデビューして、黒人女性アーティストながら“カントリー界のネオ・トラディショナリスト”とか呼ばれたり、カントリー系の新人賞とかもらったりしていたとき、プロデュースしているのがボブ・ディランやレナード・コーエンとの仕事でもおなじみのロン・コーネリアスだったこともあり、面白いことになるかも…と期待して盛り上がったものだけれど。
2005年にデビュー・アルバム『フリーウェイ・バウンド』が出て、2007年にセカンド『イット・フィールズ・グッド』が出て。でも、やはりカントリー・シーンに根付く保守的な壁は思いのほか、というか予想通りとてつもなく堅固だったようで。セカンド・アルバムのリリース以降、少なくとも日本でぼーっと過ごしている限り、ぱったりと動向がつかめなくなっていた。
そんな彼女がシーンに戻ってきたのが2021年の春ごろ。レッドトーン・レコードに移籍して、レッドトーンのハウス・バンドでもあるザ・リザレクターズを率いて14年ぶりのアルバム『アワー・カントリー』をリリース。さらにその半年後に、ウィリー・ネルソンの「ウィスキー・リヴァー」やクリーデンス・クリアウォーター・リヴァイヴァルの「光ある限り(Long as I Can See the Light)」、カーター・ファミリーの「フォギー・マウンテン・トップ」、フォスター作の「ハード・タイムズ」などをカヴァーしまくったミニ・アルバム『レイス・レコード』(皮肉なタイトルだなぁ…)も立て続けに出して。
心機一転、ナッシュヴィルにはびこる見えない壁に対する不屈の闘争心と、ごきげんにディープなカントリー・ソウル・フィーリングをぼくたちに改めて届けてくれたのでした。
そんな彼女の新作がこれ。『フィール・ライク・ゴーイング・ホーム』。今回も前作『アワー・カントリー』に引き続き、レオン・ブリッジズやリアーナ、ジョン・リジェンドらとの活動でも知られるギタリストのスティーヴ・ワイアマンと、レッドトーン・レコードの創設者でもあるジャスティン・フィップスが全面バックアップしている。ラストに収められたリー・ボブ&ザ・トゥルースのリー・ボブ・ワトソン作「ジュビリー」以外、ミコさんとスティーヴ・ワイアマン、ジャスティン・フィップスの3人による共作曲だ。
オープニングを飾るアルバム・タイトル・チューン「フィール・ライク・ゴーイング・ホーム」からして、いきなり太くファンキーなピアノのイントロに続いてディープなミコ・マークスのヴォーカルが炸裂。サビでは分厚いコーラスなども伴いつつ、往年のデラニー&ボニーあたりを彷彿させるゴスペルとブルース、そしてカントリーのごきげんなハイブリッド・サウンドを聞かせてくれる。
ザ・バンドっぽいグルーヴの下、ジュークジョイント酒場と教会が混在する南部の光景を綴りながら、マディ・ウォーターズ、ハウリン・ウルフ、ビッグ・ママ・ソーントン、マッスル・ショールズといったアーティスト名や地名を想起させるキーワードを次々盛り込んで歌われる2曲目「ワン・モア・ナイト」もかっこいい。
以降も、メイヴィス・ステイプルズ、シスター・ロゼッタ・サープ、アレサ・フランクリン、エタ・ジェイムズなど、偉大な先達からの影響を色濃くたたえた極上のカントリー・ソウルを聞かせてくれる。ミコ・マークスの歌声そのものに、まさに教会とジュークジョイントとが共存している感じで。しびれる。女性シンガーだけでなく、クリーデンス・クリアウォーター・リヴァイヴァルのジョン・フォガティとか、ジョー・コッカーとか、そういった男性シンガーの要素が感じとれる瞬間も。
歌詞をちゃんと味わいきれていないけれど、もちろん政治的な強いメッセージも確信的に盛り込まれているようで。でも、けっして説教くさくはならない、グルーヴィな感触に貫かれていて。トワンギーで、ファンキー。姐さん、かっこいいです。今のところダウンロードとストリーミングのデジタル・リリースのみみたい。でも、これは絶対アナログ盤で聞きたい。ヴァイナル化、熱望します!