Disc Review

Atlanta, 10/1/1978 / Bruce Springsteen & The E Street Band (Live.BruceSpringsteen.Net)

アトランタ 1978年10月1日/ブルース・スプリングスティーン&E・ストリート・バンド

来月届けられる予定の新作R&Bカヴァー・アルバムが待ち遠しいブルース・スプリングスティーンですが。

ぼくがこの人にドハマリしたのはちょっと遅くて。本格的にハマったのは1980年に『ザ・リバー』が出たとき。もちろんそれまでも彼の歌声には接していて。初めて聞いたのは73年のセカンド・アルバム『青春の叫び』が出たころ。少し遅れて74年、大学の先輩、ニシクボさんの勧めで耳にしたそのアルバムに対して、しかし、正直なところぼくは特に盛り上がりもしなかった。まだまだ未熟なロックンロール・ファンだった。そのころスプリングスティーンに冠されがちだった“第二のボブ・ディラン”というキャッチコピーも、すでにディランにはぞっこんだったぼくの癇になんとなく障った。人としても小さかった。心が狭かった。

そんなこともあって以降しばらくの間、スプリングスティーンに関してはノー・マーク。かの『明日なき暴走(Born to Run)』に対してさえ、リアルタイムではさほど熱心に耳を傾けることなくぼんやり日々を送っていた。まあ、この話を続けると長くなりそうなので、テキトーにはしょりますが。

その後、1980年にシングル「ハングリー・ハート」が出て。これがヒットチャート上位に食い込んで。確かジョン・レノンの突然の訃報が世界を駆け巡っていた時期だったと思う。個人的にはすでに大学を卒業して某出版社の編集者としてサラリーマン生活2年目を送っていたころ。ニューヨーク・パンクは嫌いじゃなかったけれど、ロンドン・パンクには今ひとつ反応できず、折からのニュー・ウェイヴ旋風にも馴染めず。ポップ・ミュージックってこれからどうなっちゃうのかな…と、なんとも寂しい気分に浸っていた時期。

ジョンの死も何かの終焉を象徴しているようで、寂しさに拍車をかけた。そしてぼくは、そうした空虚感を埋めるかのようにオールディーズ・ポップの世界に埋没していた。そんな時期のぼくに「ハングリー・ハート」は、いやいやロックンロールもまだまだいけるぞ、と。新しい音楽の波に乗れないからどうした、と。最先端の気分だの流行などに関係なく、伝統を堂々と受け継ぎながら時代に仁王立ちする頼もしいアーティストだっているんだぞ、と。思い知らせてくれたのだった。

で、「ハングリー・ハート」が入っている2枚組アルバム『ザ・リバー』を買って。いよいよブルースの凄みにノックアウトされて。以降、ぞっこん。ドハマリ。と、そういう個人的な流れ。ずいぶんと出遅れたブルース・スプリングスティーン・ファンができあがったわけですが。

なもんで、それから1970年代のブルースの音源に立ち返って、聞きまくった。公式スタジオ・アルバムはもちろん、海賊盤ライヴもたくさん聞いた。画質最悪のブート・ビデオも手に入れて何度も見返した。で、すげえやつがいるんだなとぶちのめされた。

そんな時期にいちばん聞いた海賊盤ライヴが1978年のダークネス・ツアーもの。ご存じ、アルバム『闇に吠える街(Darkness on the Edge of Town)』のリリースを受けて行なわれた伝説のコンサート・ツアー。そのうち7月7日のカリフォルニア州ウェスト・ハリウッド“ザ・ロキシー”公演、8月9日のオハイオ州クリーヴランドの“アゴラ・ボールルーム”公演、9月19日のニュージャージー州パセーイクの“キャピトル・シアター”公演、9月30日のジョージア州アトランタの“フォックス・シアター”公演、12月15日のカリフォルニア州サンフランシスコの“ウィンターランド・アリーナ”公演がFMでラジオ中継され、その音源がブートとして出回って。ぼくはその辺をむさぼるように聞きまくっていたのでした。あー、懐かしい。

今やこれらの音はみんな、ブルースの公式ライヴ音源アーカイヴ・サイト、live.brucespringsteen.net でオフィシャルな形でリリースされていて。以前、本ブログでも9月19日のキャピトル・シアターでのパフォーマンスを収めた盤を紹介したことがあったっけ。加えて live.brucespringsteen.net では9月20日のキャピトル・シアター公演、12月8日のテキサス州ヒューストンの“ザ・サミット”公演、12月16日のウィンターランド公演もオフィシャル公開されて。それら計8公演をまとめたCD24枚組ボックスセットなんてとんでもないものまで発売された。

さすがにこれで打ち止めかと思っていたら、去年の半ば、1978年7月1日のカリフォルニア州バークリーの“バークリー・コミュニティ・シアター”公演ってのがさらに追加でアップロードされて。で、つい先日、今年の10月に入って、今日ご紹介する1978年10月1日のジョージア州アトランタの“フォックス・シアター”公演を収めた盤が出た。1978年もの第10弾。底なし沼だな(笑)。ものすごく楽しい底なし沼だけど。

すでに出ている前日、9月30日のフォックス・シアター公演と比べて、当然のごとくセットリストはいろいろ変わっていて。このツアー、だいたいオープニングはカヴァーものでスタートしているのだけれど、前日のエルヴィス・プレスリー「グッド・ロッキン・トゥナイト」に代わって、この夜はローリング・ストーンズの「ザ・ラスト・タイム」で幕開け。5月に始まったダークネス・ツアーは当初この10月1日のアトランタ公演まで、全86本で終了する予定だったので、だから“ラスト・タイム”と。MCでも語っている通り、ブルースはそういうつもりで選曲したらしい。実際にはこのツアー、大好評につき年末まで延長されることになっちゃったのだけれど。

エルヴィスものとしては「グッド・ロッキン・トゥナイト」ではなく、ライヴ5曲目で「ハートブレイク・ホテル」をカヴァーしている。その代わり前日演奏していたストーンズでもおなじみ「ノット・フェイド・アウェイ」で始まる3曲メドレーがなくなっていたり。なかなか面白い、フェアな出し入れです(笑)。

その他、カヴァーもので前日のセットリストからなくなっちゃったのは「サンタが街にやってくる(Santa Claus Is Coming To Town)」と「ナイト・トレイン」と「レイズ・ユア・ハンド」。こっちの日しかやってないのは、前述2曲のほか、アニマルズの「イッツ・マイ・ライフ」とアンコールのオーラスに披露されるゲイリー・US・ボンズの「真夜中のロックンロール・パーティ(Quarter To Three)」。

ブルース作品としては「独立の日(Independence Day)」「レーシング・イン・ザ・ストリート」「裏通り(Backstreets)」がなくなって、「ファクトリー」「ミーティング・アクロス・ザ・リバー」「おまえのために(For You)」「キティズ・バック」「57番通りの出来事(Incident on 57th Street)」がセットリストに加わっている。

特に“この曲、俺たちはあまり演奏していないんだ”とMCしてから歌い出す「ミーティング・アクロス・ザ・リバー」が泣ける。確かにダークネス・ツアーでは5回しか演奏されなかったのだとか。現在まで全ツアーを眺めても、そんな頻繁には演奏されていないようだし。うれしい。そこから「ジャングルランド」へとなだれ込む瞬間も鳥肌もの。こちらも近年はめったに演奏されなくなった13分に及ぶ「キティズ・バック」に続いて、“『青春の叫び(The Wild, the Innocent & the E Street Shuffle)』からもっとやろうぜ”というMCを挟んで披露される「57番通りの出来事(Incident on 57th Street)」へと突入する流れもしびれる。

今回もブルースの公式ライヴ音源配信サイトでのみのリリース。今回もハイレゾ音源をダウンロードで買いましたー。ほんと、いつも思うことだけれど、この時期にブルース&Eストリート・バンドを見たかったものです。これ聞きながら、新作、熱い思いで待ちます。

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