レジメンタル・サージェント・ジッポー/エルトン・ジョン
ぼくが編集長をつとめているオンライン音楽雑誌『ERIS』の最新36号、出ました。メールアドレスを登録するだけで無料で読めます。
亀渕昭信、北中正和、天辰保文、ピーター・バラカン、鷲巣功、水口正裕、岡本郁生、高田漣、能地祐子ら連載陣は今回も快調です。さらに、今回は巻頭がごきげん。なんと、あがた森魚×鈴木慶一・対談「オリジナルはちみつぱい異聞」! あの「赤色エレジー」から50年ということで、あがたさんと慶一さんに集まっていただき、当時のことをあれこれ、たっぷり40ページに及ぶボリュームで振り返ってもらいました。日本のロック/フォーク黎明期の空気感を追体験していただけると思います。
繰り返しますが、なんたって無料(笑)。バックナンバーも興味深いテーマ満載ですし。この機会にぜひメールアドレス登録してみてください。
で、そのあがた×慶一対談、ぼくが聞き手および構成を担当したんだけど。今回、原稿まとめながら、あがたさんが1972年にリリースしたメジャー・デビュー・アルバム『乙女の儚夢(ロマン)』とか改めて聞き返して、やっぱ画期的な1枚だったな、と。あのアルバムにあがたさんや遠藤賢司さんや鈴木茂さん、友部正人さん、そして、はちみつぱいの面々が詰め込んだプレイとか思いとか発想とか、その熱量には今なお圧倒されるしかない。
オリジナル・フォーマットでのストリーミングとかされていないものの。この『乙女の儚夢』をはじめ、『噫無情(レ・ミゼラブル)』『僕は天使ぢゃないよ』『日本少年(ヂパング・ボーイ)』といったあがたさんの初期作品群が日本のシーンに与えた刺激は大きかったと思う。中でも『乙女の儚夢』。デビュー作にはその後の可能性のすべてが…とか、よく言われるけれど。ほんと、そう。
てことで、その流れを受けつつ、半ば強引に今朝のピックアップ・アルバムの話題へ。エルトン・ジョンの“幻のデビュー・アルバム”です。まあ、エルトンの場合、1969年6月リリースの『エルトン・ジョンの肖像(Empty Sky)』がオフィシャル・リリースされた最初のオリジナル・アルバムで。
そういう意味では、それに先駆けて1967〜68年に録音されながらお蔵入りしてしまっていた本作『レジメンタル・サージェント・ジッポー』は、あがたさんで言えば『乙女の儚夢』の前に自主制作された『蓄音盤』のほうに近いのかも。
こういうアルバムがあったんだということをぼくが知ったのは、2020年に未発表音源満載で編纂されたCD8枚組『ジュエル・ボックス』に、収録曲のピアノ・デモとかバンド・ヴァージョンとかが収められていたときで。ブックレットに掲載されていた情報をもとに自分で完成品を再現するプレイリストを作った方も多かったに違いない。ぼくもやりました(笑)。
で、去年、2021年のレコード・ストア・デイに合わせて、そのモノラル・ミックスのLPが限定リリースされて。続いて今回、ついにそのモノラル・ミックス12曲にステレオ・ミックス12曲も加えた24曲いりCDが世に出た、と。ストリーミングはステレオ12曲のみだけれど。いずれにせよ、もういじましいプレイリストはいらない、と(笑)。そういう流れです。うれしい。
制作された時期的にも、やはりビートルズの影響を強くたたえた、全体的にどこかサイケデリックかつドラッギーな要素も色濃い1枚なのだけれど。若き日のエルトン・ジョン&バーニー・トーピンによるみずみずしく、メランコリック、かつナイーヴな楽曲群が楽しめる。といっても、さすがあえなくお蔵入りしてしまっただけのことはあり、まとまりには欠けるというか。詰めが甘いというか。歌声にも深みがないというか。歌詞も気まぐれというか。そういう“青い”テイストは否めないのだけれど。
でも、独自のコード感が随所に顔をのぞかせていたり、バロック調のアプローチが展開されていたり、その後のエルトンを予見させる要素もちょいちょい見受けられてものすごく興味深い。ここから『エルトン・ジョンの肖像』『僕の歌は君の歌(Elton John)』へと連なるアルバム制作の中、エルトンもバーニーも、徐々に自分たちなりの個性を固めていき、世界的ブレイクにつながっていくわけだ。
仕上がりはゆるめとはいえ、興味の尽きない1枚です。