スウィート・アンノウン/セラミック・アニマル
いやー、知りませんでした、この人たちのこと。かっこよくて驚いた。
セラミック・アニマル。USインディ系に詳しい方にはおなじみの存在なのかな。フィラデルフィア郊外というか、ニューヨーク郊外というか、米ペンシルヴァニア州ドイルズタウンを本拠に活動するバンドで。バイオとかチェックしてみると、ジャンル的には“サイケデリック&インディ・ロック”とか書いてある。
クリストファー・ウォーレン ・リーガン(ヴォーカル、ギター)が中心メンバー。このクリスさんと、エリック(ドラム)、エリオット(ヴォーカル、キーボード)のリーガン三兄弟を核に、アントニー・マルキオーネ(ギター)とダラス・ホージー(ヴォーカル、ベース)が加わった5人組。
2013年、地元でよくあるカヴァー・バンドとして活動開始した。でも、ほどなくクリスがオリジナル曲を書くようになって、2016年にはデビュー・アルバム『ザ・カート』を自主制作。当時、ぼくは全然その存在に気づかなかったけど。ストリーミングもされているので、先日、後追いで聞いてみた。曲によってはストロークスっぽいような、そんな感じもあるのだけれど、さすがはフィラデルフィア文化圏、そこに、こう、トッド・ラングレン的というか、初期ホール&オーツ的というか、ポップさとサイケ感と適度なアヴァンギャルドさとがセンスよく混じり合った1970年代っぽい世界観も見え隠れしていて。
なんでもリーガン兄弟のお父さんというのが超熱心なロック・ファンで。リーガン家では昔からローリング・ストーンズとかキンクスとかブラック・サバスとか、そうしたいわゆるクラシック・ロックのレコードがかかりまくっていたのだとか。その影響で息子たちもストーンズはもちろん、レッド・ツェッペリン、ジミ・ヘンドリックス、T.レックス、デヴィッド・ボウイなどの大ファンになったらしい。そうした過去の財産への素直なリスペクトの眼差しがいい形で反映されているようにも思えた。
さらに2年後の2018年にはセカンド『ザ・ホース』も自主制作。これが各誌のレビューで好評を博したことでSpotifyのサイケデリア・プレイリストにもセレクトされ、一気に注目度アップ! と、この段階でもぼくはまだ全然知りませんでしたが…(笑)。西海岸各地を巡るツアーとかもするようになって、盛り上がって、2020年にサード・アルバム『ハイ・エンド』を出して。もちろんここに及んでもぼくはまったくノーマーク。
けど、この勢いがブラック・キーズのダン・アワーバックの元に届き、彼のイージー・アイ・サウンド・レコードと契約。アワーバックのプロデュースの下、ナッシュヴィルのイージー・アイ・スタジオで移籍第1弾、通算4作目のアルバム『スウィート・アンノウン』を完成させたのでありました。ここに至って、アワーバックのお眼鏡にかなったやつらってことから、ようやく情弱なぼくもめでたくその存在を知って、聞いて、思いきりハマった、と。
これまでの自主制作の3枚とは違い、やはり仕上がりがプロのクオリティ。曲作りもすべてクリス・リーガンとダン・アワーバックの共作で。曲によって、デズモンド・チャイルド、アンジェロ・ペトラグリア、パット・マクラフリンといった名ソングライターたちがクレジットに名を連ねる。セラミック・アニマルは、こうしたベテランの視点も取り入れながら自分たちの持ち味を再構築。プロの手助けで複雑にしていくのではなく、よりシンプルに、わかりやすく聞き手へと伝える方法を会得した感じ。
ぼくは本作が初セラミック・アニマル体験だったのですんなり受け止められたけれど、もしかしたらこの変化を否定的にとらえる方もいるのかも。バンド本人たちにもいろいろ葛藤があったのではないかと想像するけれど。でも、結果オーライでしょう。いいアルバムだと思う。遅れてきたファンとしては、なんか結果いい時期にこのバンドと出会えたのかな、みたいな。
テンポのいい曲ももちろん楽しい。けど、スロウ目の曲の出来がいい。この変化に関しても賛否分かれそうではありますが。個人的には、そこはかとなくブルー・アイド・ソウル的な味わいが漂う「ロング・デイ」とか「アイ・ドント・ウェイト」とか、デズモンド・チャイルドと組んだ「フォエヴァー・ソング」とか、アンジェロ・ペトラグリアと組んだアルバム・タイトル・チューンとか、そこら辺にハマった。泣けます。けっこうシニカルなユーモア感覚も持ち合わせているようだし。あなどれません。