Disc Review

Auger Incorporated / Brian Auger (Soul Bank Music)

オーガー・インコーポレーテッド/ブライアン・オーガー

一昨年の春、ブライアン・オーガーの『イントロスペクション』なるCD3枚組アンソロジーを紹介したことがあったのだけれど。先日、Apple Musicでチェックしてみたら、もう配信されていなくて。こういう過去音源のアンソロジーとかって、音源の権利を持っているところが流動的なこともあり、油断するとサブスクのストリーミングからあえなく姿を消してしまうんだなぁ、と。思いましたよ。

サブスク文化が定着してきて。自分で“持たない”、近ごろ流行りのミニマリスト的な生き方が音楽の世界でも主流になりつつある気がするけど。オールディーズ・ファンとかにはまだまだ気が抜けない状況というか。やっぱり“ブツ”として持っていないといつ聞けなくなるかわからないぞというか。

そんなことを改めて思い知りつつ。でも同時に、ブライアン・オーガーの新たなアンソロジーが編まれていることにも気づきました。それが本作『オーガー・インコーポレーテッド』。

2020年ごろから、オーストラリアのファンキーなダイナマイト・ディーヴァ、カイリー・オウルディストとか、やはりオーストラリアのヴァイオリン奏者、タミル・ロージョンとか、俳優/コメディアンとしても活躍するUKファンク大統領、クレイグ・チャールズとか、そういう連中のひとクセある作品群をリリースし続けている英ソウル・バンク・ミュージックからの発売。

どうやらソウル・バンクがブライアン・オーガーの古いカタログの権利をゲットしたらしく。これから過去のオリジナル・アルバム群の完全復刻プロジェクトに着手していく予定とのこと。で、まずはこれ…的な感じで、オーガーの60年におよぶキャリアを一気に駆け抜けるアンソロジーを編んでくれた。

編纂を手がけたのは、1980年代後半からロンドンを本拠に活動してきたミュージシャン/プロデューサー/DJであり、ソウル・バンクのメイン・キュレーターも務めているグレッグ・ボラマン。1960年代初頭に天才ジャズ・ピアニストとしてデビューして、ザ・スティームパケット、ザ・トリニティ、オブリヴィオン・エクスプレスといったバンドを率いて、さらにはジュリー・ドリスコールやアレックス・リガートウッド、ロッド・スチュワートらをヴォーカルに迎えたりしながら録音した数々の名演が全26曲、収められている。

ジャズ、R&B、ラテン、ロック、ポップなどを独自のクールな感覚で躍動的に融合し、やがて“アシッド・ジャズのゴッドファーザー”と異名をとるほどになったオーガーの歩みをざっくり振り返るには絶好かも。配信が終わっちゃった『イントロスペクション』を紹介したときにも書いたことだけれど、この人のエレクトリック・ピアノとハモンド・オルガンはほんとかっこいい。プレイそのものというより、その音色が魅力的。モス・デフとかコモンとか、ヒップホップ系のアーティストがこぞってこの人をサンプリングするのは、きっとその音色の説得力ゆえなのだろうなと再確認できる。

編纂したボラマンさんのコメントによると、こんな機会は“たぶん一生に一度”だと思うので、今後も、過去のオリジナル音源たちはもちろん、ライヴ音源、放送音源、別ヴァージョン、アウトテイクなども思いきり解き放っていくつもりだ、と。いやー、頼もしい。大いに期待です。とはいえ、これまたソウル・バンクからどこか他のレーベルに権利が移ったとたん、サブスク・シーンから姿を消してしまうことになるのだろうし。

いつまでもあると思うな、発掘音源…ってことで。本作、今のところデジタル・リリースのみみたいだけど、ゆめゆめ油断めされぬよう。

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