Disc Review

Sob Rock / John Mayer (Columbia Records)

ソブ・ロック/ジョン・メイヤー

すげーの、早朝から目の当たりにしちゃいました。ボブ・ディラン。日本時間の今朝6時から。ストリーミング・ライヴ『シャドウ・キングダム〜ジ・アーリー・ソングズ・オヴ・ボブ・ディラン』。いやいや、やられました。がつんと。まだ48時間はアンコール配信が続くようなので、ネタバレを避けるためにも細かいことはまたタイミングを改めて。後日、雑誌とかにも感想を書かせてもらう予定です。でも、とにかくすごいもん朝っぱらから思いきり受け止めましたよ。去年、パンデミックの下、あえなく中止になってしまった来日公演がもし実現していたら、こういう要素も加味されていたのかなぁ。やばい…。

そんなの見ちゃった直後なもんで。今朝のブログ更新はちょっと軽めの、わりと爽快なやつを。

ジョン・メイヤー。2017年の『ザ・サーチ・フォー・エヴリシング』から4年ぶりとなるフル・スタジオ・アルバム『ソブ・ロック』。2018年リリースのシングル「ニュー・ライト」、2019年の「アイ・ゲス・アイ・ジャスト・フィール・ライク」と「キャリー・ミー・アウェイ」、そして今年になって先行リリースされた「ラスト・トレイン・ホーム」の4曲も収められた新作です。

ぼくもヘタクソながら趣味でギターを弾いたりするわけですが。そんなギタリストの端くれとして、この人がプレイしているところを見るたびに驚く。たじろぐ。グルーヴの的確さとか、フレーズの鮮烈さとか、何よりフィンガリングのすごさとか…。

げっ、左手の親指でそんなとこ押さえるの!? 的な。

ほんと、びっくりする。まあ、手がでかいからという、彼ならではの物理的な特性あってこそのプレイではあるのだろうけど。そんな特性をも最大限に活かしつつ、溢れんばかりのアイディアをてんこ盛りにした柔軟なギター・プレイをのびのび聞かせてくれるそのさまは、まじ、痛快だ。圧巻だ。

米ローリング・ストーン紙が、ジョン・フルシアンテ、デレク・トラックスとともにこの人のことを“New Guitar Gods”、つまり新世代のギターの神様のひとりに選出したのが2007年だから、すでに15年近く前。もはや“New”はいらない。紛れもなく現代を代表するギター・ゴッドのひとりへと成長した。

最近はグレイトフル・デッドのレガシーを受け継ぐデッド&カンパニーへの参加でもおなじみだけれど、これ、先週末に本ブログでも取り上げたデレク・トラックスによる『レイラ』再演同様、誰からも文句のつけようがない、ある種この人しかいない的な最適人事だった気がする。

ジョン・メイヤーがポール・リード・スミスとタッグを組んで作り上げたシグネチャー・モデルは、見た目からもわかる通り、基本的にはフェンダー社の伝統的名器、ストラトキャスターを下敷きにしている。ネックも1963年、64年製のヴィンテージ・モデルの再現だ。トレモロ・アームも伝統的なスティール製。ピックアップもオーソドックスな形態のシングル・コイル。が、そうした装備の随所に最新の技術が巧みに注入されており、コンテンポラリーな使い方にも十分耐えられる仕上がりになっていて。

「ぼくが愛するヴィンテージな仕様に、現代的なスピリットとデザインを融合した夢のギターだよ」

と、ジョン・メイヤーはうれしそうに語っていたっけ。この“ヴィンテージ”と“現代的なスピリット”との融合というコンセプトはそのまま、ギター・プレイも含む彼の音楽全体に通じるものだ。やみくもに伝統を拒絶して新奇な方向ばかりに突き進むわけではない。かといって伝統にずっぽし埋没するわけでもない。伝統と革新の共存。今の時代に呼吸する現在進行形の音楽家としてオリジナリティを発揮するためには、既存の伝統を知り抜くことこそが重要だ、と。ジョン・メイヤーの音楽はそんなことをいつもぼくたちに教えてくれる。

そんな、ロックの旧世代リスナーからも、コンテンポラリーなリスナーからもきっちり支持される頼もしい男が、このほどリリースされた新作で対峙してみせたのは、エイティーズ! 1980年代にぼくたちが『ベストヒットUSA』とかで堪能していた、あの感触に真っ向から立ち向かっている。

ジョン・メイヤーは1977年生まれで、ギターを始めたのが13歳のとき…というから、1990年ごろだったわけで。そういう世代の目線からすれば、リアルタイムよりちょっと前の時代の音。まあ、ギターを始めてすぐ、近所のおじさんにスティーヴィー・レイ・ヴォーンを聞かせてもらってそこからずぶずぶブルースの沼へとハマっていったジョン少年だっただけに、過去へと向かう目線は早くから身体にしみついていたのだろうけど。彼がブルースやソウルやヴィンテージ・ロックなどに向けるマニアックな眼差しはエイティーズものに対しても存分に発揮されている感じ。それが楽しい。

ドン・ウォズとの共同プロデュース。ピノ・パラディーノ、グレッグ・フィリンゲインズ、レニー・カストロらベテランを中心に、ラリー・ゴールディングズ、グレッグ・レイズ、アーロン・スターリング、マレン・モリスらがバックアップ。曲によってもろTOTOのようだったり、フィリンゲインズやネイザン・イーストらと組み始めた時期のエリック・クラプトンのようだったり、1980年代半ばに復活したころのデッド…というか、ジェリー・ガルシアのようだったり、ダイア・ストレイツのようだったり、シンセ・ポップ方向にぐっとシフトした時期のスティーヴ・ウィンウッドのようだったり。

アルバム・ジャケットや一連のビデオ・クリップなども含めて、追体験した1980年代の多彩なイメージを、いい意味でテキトーに、奔放に、でもめいっぱい楽しみながら21世紀に再構築したような1枚だ。

ストリーミングのビジュアルに付けられた“Nice Price”のステッカーとか、もう最高! であると同時に、そうか、前述したようなエイティーズ・ミュージックはメイヤーにとって“Nice Price”のステッカーとともに廉価で体験してきた音楽だったのだな、と。そのあたりの音楽を真っ向からリアルタイムに受け止めてきた旧世代としては思ったりも。なんたって、ぼくの場合、世代的に1980年代とか特に懐かしくないというか。けっこう新しい記憶というか。その辺から以降は全部“最近”みたいな…(笑)。なもんで、本当のところ、ジョン・メイヤーの今回の目論見を受け止めるには適していない世代なのかもしれない。対象外? しかし、それでも存分に楽しめる1枚だったのは事実。

持ち前のブルー・アイド・ソウル風味はぐっと抑え気味になっているけれど、それでも随所随所、隠しようもなく歌い回しやギターのフレージングの端々に顔を覗かせる微妙な感触がなんだか逆説的に心地よい。まあ、このあたりも含めた本作の魅力については、リリースに先駆けて能地祐子が note のほうにアップした『いつも心にGジャンを。』というエントリーに楽しく凝縮されている感じなので、ぜひご参照を。

遊び心満載の1枚。歌詞のほうにもけっこうストレートなエイティーズふう定型句が見受けられたりもして、にやけてしまうのだけれど。いや、そうは言ってもこの人らしい、なんとも屈折に満ちたアンビバレンスみたいなものも同時に歌い込まれているようで。その辺も時間があったらいろいろ深く読み込んでみたいところだなとは思っております。

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