カリフォルニア・ミュージック・プレゼンツ・アド・サム・ミュージック/マイク・ラヴ、アル・ジャーディン、ブルース・ジョンストン他
ぼくは「アド・サム・ミュージック・トゥ・ユア・デイ」という曲が大好きで。高校生になりたてだった1971年とか。もう、ほぼ毎日この曲を聞いていた。
ビーチ・ボーイズが1970年にリリースしたアルバム『サンフラワー』の収録曲。彼らの人気が、まじ、底だったころの話だ。ぼくの周囲では誰ひとりビーチ・ボーイズなど、しかも彼らの新曲など気にしちゃいなかった。聞いちゃいなかった。正直、孤独だった。
今ならばSNSなどを通じて、日本のどこかにいるであろう奇特な仲間を探すことも可能かもしれない。が、インターネットなど夢のまた夢だった当時、そんなことできるわけもなく。ひとり寂しく彼らのハーモニーに身を任せるしかなかった。が、この孤独感がまたぼくのビーチ・ボーイズへの愛を深めてくれたことも事実ではあったのだけれど…。
音楽の素晴らしさ。救いとしての音楽。そうしたテーマをまっすぐ、衒いなく綴った曲だった。初めて耳にしたときから、他のどんなアーティストにも真似できない豊かなハーモニーに心奪われた。確かに、思いきり気恥ずかしいメッセージではあった。なにせ、あの時代の話なのだ。
ベトナム戦争末期、米軍のカンボジア侵攻に抗議するデモが行なわれていたケント州立大学で州兵が4人の学生に発砲、銃殺してしまった忌まわしき事件にクロスビー・スティルス・ナッシュ&ヤングが怒り、即刻、「オハイオ」という曲の題材にした、あの時代。エドウィン・スターが“戦争に意味はない”と力みまくってシャウトしていた、あの時代。
そんな時代に、“あなたの一日に音楽を…”とか、何をとぼけたことを歌ってるんだと言われても反論のしようがない1曲ではあった。当時アメリカではシングル・カットもされていたけれど、全米チャートで最高64位どまり。中途半端な戦績しかあげられずじまいで終わっていた。
でも、ぼくはこの曲が大好きだった。本当に飽きることなく毎日のように聞いていた。サビの歌詞、“Music, when you’re alone, is like a companion for your lonely soul…”、つまり、“音楽は、あなたがひとりきりのとき、あなたの孤独な心に寄り添ってくれる仲間なんだ”というのが、たったひとりでビーチ・ボーイズの歌声に日々耳を傾け続けていたぼくの心も癒やしてくれたものだ。
『ペット・サウンズ』をはじめとする他のビーチ・ボーイズ作品同様、当時の時代背景などをまったく反映していない曲だっただけに、むしろ歳月を経た今こそ、時を超えてその真価を発揮する曲なのかもしれない。だから、ぼくは今なおこの曲を、そしてこの曲を収めた『サンフラワー』というアルバムを愛聴し続けているわけだけれど。
そんな曲、「アド・サム・ミュージック・トゥ・ユア・デイ」をビーチ・ボーイズに関係する面々が世紀を超えて歌い直したヴァージョンが世に出た。
残念ながら作者のひとりであるブライアン・ウィルソンは参加していないのだけれど、今も健在な他のビーチ・ボーイズのメンバーたち、マイク・ラヴ、アル・ジャーディン、ブルース・ジョンストン、デヴィッド・マークスを中心に、ブライアンの娘であるカーニーとウェンディ、カーニーの夫であるロブ・ボンフィリオ、カーニーとロブの娘であるローラ、故カール・ウィルソンの息子のジャスティン、マイク・ラヴの子供たちであるクリスチャン、ヘイレイ、アンバー、アル・ジャーディンの息子のマット、ビーチ・ボーイズおよびブライアン・ウィルソン・バンドで長年彼らをサポートしてきたジェフリー・フォスケットらが参加。
このリメイクを発案したのはビーチ・ボーイズのファンジンとしておなじみ『エンドレス・サマー・クォータリー』を編集・発行しているデヴィッド・ベアードだ。昨年、アルバム『サンフラワー』の発売50周年を祝う特集号を作っているとき、この曲の持つメッセージの素晴らしさを再確認。このメッセージをビーチ・ボーイズのメンバーと、彼らの子供たち、孫たちとによって今の時代に蘇らせたい、という思いを抱いたのだとか。
で、そんなベアードの熱意に応えるようにして前述の顔ぶれが勢揃い。ロブ・ボンフィリオのプロデュースの下、「アド・サム・ミュージック・トゥ・ユア・デイ」と「フレンズ」というビーチ・ボーイズ・クラシックのリメイクが完成した。そこにメンバーたちのソロ音源を数曲加える形でアルバムにまとめられ、“カリフォルニア・ミュージック”という、まあ、昔からのファンにしてみると、え、その名義使うの? というアーティスト名でリリースされた、と。そういうわけだ。
それが本作『カリフォルニア・ミュージック・プレゼンツ・アド・サム・ミュージック』。チャリティ・アルバムという形でのリリースで、収益の一部は米食糧NGO“フィーディング・アメリカ”に寄付されるそうだ。
まあ、正直、「アド・サム…」も「フレンズ」もオリジナル・ヴァージョンが放つ無垢さ、崇高さにはどうしたって及ばないわけだけれど。でも、見逃せないリメイク・レコーディングであることは確か。寄付にもなるから、もちろん買わせていただきましたー。国内盤(Amazon / Tower)も明日、4月28日にはリリースされるみたい。
他に収録されている曲をざっとチェックしておくと。「ラム・ラージ」はマイク・ラヴが2017年のアルバム『アンリーシュ・ザ・ラヴ』で発表した曲。「ジェニー・クローヴァー」はアル・ジャーディンが今年リリースしたシングル「ウェイヴズ・オヴ・ラヴ2.0」のカップリング曲。冒頭に短いストリングス・タグが付いている。
「シー・ビリーヴズ・イン・ラヴ・アゲイン」は、ブルース・ジョンストンが1985年のアルバム『ザ・ビーチ・ボーイズ』に提供した曲で。2012年の『ゴッド・メイド・ザ・ラジオ〜神の創りしラジオ〜(That's Why God Made the Radio)』のセッションで再録音したもののお蔵入りしていたヴァージョンだ。
「ロング・プロミスト・ロード」はご存じ、1971年のビーチ・ボーイズのアルバム『サーフズ・アップ』に収録されていたカール・ウィルソン作品を、デヴィッド・マークスがギター・インストとして再演したもの。
ジェフリー・フォスケットの「ゲット・トゥゲザー」は、彼が2000年にリリースしたソロ・アルバム『トゥエルヴ・ アンド・トゥエルヴ』のボーナス・トラックとして世に出た曲。ヤングブラッズの代表曲のカヴァーだ。で、ロブ・ボンフィリオの「ゴールデン・ステイト」は2014年のアルバム『フリーウェイ』の収録曲のひとつです。