炎のL.A.〜ウォーレン・ジヴォン・ライヴ(2LPデラックス・エディション)/ウォーレン・ジヴォン
すでに廃盤になったアナログLPを対象に毎月人気投票を行ない、1位になった作品を高音質ヴァイナルで限定復刻し続けてくれているありがたいサイト、“ラン・アウト・グルーヴ”。そこで去年の秋、復刻が決まってプレオーダーが始まっていたのが本盤だ。
ウォーレン・ジヴォンが1980年暮れにリリースしたライヴ・アルバム『炎のL.A./ウォーレン・ジヴォン・ライヴ(Stand In The Fire: Live At The Roxy)』。ついにブツが世に出ましたよー。
マーティン・スコセッシに捧げられたこのライヴ・アルバムは1980年8月、米ロサンゼルスのザ・ロキシー・シアターで行なわれた5夜連続公演の模様を記録したもので。ジヴォンにとってもっとも勢いに乗っていた時期のパフォーマンスが楽しめる。もともとはアナログLP1枚もので、全10曲入りだった。それがCD化再発される際、ボーナス音源が4曲追加されて全14曲入りのデラックス・エディションへとアップグレード。現在、ストリーミングされているのもこの14曲エディションだ。
ところが、今回のヴァイナルでの復刻はなんとLP2枚組で。既出4曲のボーナス音源に加えて、さらに6曲の未発表音源が追加されている。うち1曲は、本ライヴのオリジナルLPでアルバム・タイトル・チューンとともに初お目見えした“新曲”のひとつ「ザ・シン」の、ちょっとだけ長い別ヴァージョンってやつではあるけれど。それも含めてうれしい復刻だ。もちろん以前出た4曲は過去CDでしかリリースされていないから、すべて初ヴァイナル化。
つまり、オリジナル・アルバム通りの10曲入りLPが1枚と、後から追加されたもろもろの未発表もの10曲をまとめたLPがもう1枚、という豪勢なアナログ2枚組での復刻になっているのだ。やばい。
全世界3450セット限定。ヴァーモントのヴァーダント・スタジオでピート・ワイスがオリジナル・マスターからリマスタリング。サム・フィリップス・レコーディング・スタジオでジェフ・パウエルがカッティング。オランダでプレス。180グラム重量盤。LP2枚が見開きジャケットに収められている。未発表フォトや新ライナーノーツも魅力だ。
ご存じの通り、この人、1960年代末にいったんシンガー・ソングライターとしてソロ・デビューを飾ったものの、どうにもうまくいかず、エヴァリー・ブラザーズのバック・バンドでキーボードを弾いたり、ラジオのジングルを作ったりしていたのだけれど。やがて1976年、ジャクソン・ブラウンのプロデュースの下、再起アルバム『さすらい(Warren Zevon)』を制作。
以降、1978年にノヴェルティものとして大ヒットしたシングル曲「ロンドンの狼男(Werewolves Of London)」を含む『エクサイタブル・ボーイ』を、さらに1980年にブルース・スプリングスティーンとの強力な共作曲「ジニーと殺し屋(Jeannie Needs a Shooter)」やアーニー・K・ドーが歌ったアラン・トゥーサン作品「或る女(A Certain Girl)」のカヴァーなどを含む『ダンシング・スクールの悲劇(Bad Luck Streak in Dancing School)』をリリースして…。
ずいぶんと以前、2008年に『さすらい』のコレクター・エディションが出たとき、ブログにも書いたことなのだけれど。改めて引用しておきますね。
この人、とことん過小評価されてるなぁと思う。日本ではもちろん、本国アメリカでも、だ。03年に他界する間際は、ミュージシャン仲間の強力な後押しもあってか、一瞬注目度が上がった気もするけれど。本盤以降、10枚以上のオリジナル・アルバムをリリースしているにもかかわらず、全米アルバムズ・チャートでトップ20に入った盤はほんの数枚。残りはせいぜい80位だの90位だの、その辺をうろうろするばかり。
評論家受けは悪くないのに。もったいないなぁといつも思う。特に本盤を含めて、76~82年、アサイラム在籍時の作品群はもっと評価されるべき。同じような思いを抱いているファンの方も少なくないはず。東のブルース・スプリングスティーンに真っ向から対抗できる西の才能なのだから。荒廃したロサンゼルスを舞台に、ジャンキー、退役兵士、殺人者、警官、狼男、動物園のゴリラなどを主人公に据え、どうしようもなく閉塞した空しい日常を、辛辣に、あるいはシニカルに描き出し続けた人で、そうした知的な毒と屈折したユーモア感覚ゆえ、英米ではノヴェルティ系のアーティストとして扱われたりすることもあるようだけれど。この人の場合、本領を発揮したときの“深さ”とか“鋭さ”とかは並じゃない。
と、そんな具合に、なんか一般的な人気の面では今いち“抜け”切らない感じのジヴォンながら、少なくともこのライヴ盤が出たころはかなりよかった時期というか。注目度上がりまくり期。なので、そりゃごきげんだ。オリジナルのLP1、ボーナスのLP2、両方を通じて1980年代のちょっとハード目なウェスト・コースト・サウンドを存分に堪能できる。
オリジナルLPのラスト、メンバー紹介のあとアンコールっぽくボ・ディドリーのカヴァーで締めくくられていたのと同様、今回のLP2のラストも、「風にさらわれた恋(Hasten Down The Wind)」を歌い終えてアンコールを求める拍手が続いたあと、前述アーニー・K・ドーのニューオーリンズ・ロックンロールをカヴァーした「或る女」で終わる形になっていて。こっちのほうが「風にさらわれた恋」で渋く終わるCDデラックス・エディションよりも、もしかしたらジヴォンらしい終わり方なのかも。
気になる方は、なくならないうちに入手してくださいませ。