アルティメイト・ジョージア・サテライツ/ジョージア・サテライツ
先日、スティーヴィー・レイ・ヴォーンの高音質再発盤を紹介した際にも書いたことなのだけれど。1980年代に入って、デジタル技術がどんどんポップ音楽シーンに流入してきて。古きよきロックンロールの在り方とかがなんとも危うくなっている気がした時期があって。
そういう古きよきロックンロールが大好きだったぼくは、ああ、音楽の作られ方がデジタルの波にのみ込まれてしまって、もうこれからは昔のようなアナログなロックは聞くことができなくなってしまうのかなぁ…とか。弱気になったりすることも少なくなかった。まあ、結論から言えば、ありがたいことに、ロック音楽はけっしてそんな惨状には陥らずにすんだわけだけれど。
1980年代に、ロックンロールは不滅だと改めて確信させてくれた頼もしいアーティストというのは何組かいて。まずはストレイ・キャッツ。で、彼らを世に送り出した初代プロデューサーでもあったデイヴ・エドモンズとか、ニック・ロウとか、UK陣。続いて、先述したレイ・ヴォーンが登場して。彼の兄貴、ジミー・ヴォーンを含むファビュラス・サンダーバーズもメジャー・デビューを果たして。
ZZトップがシンセサイザーを取り込みつつブギーしまくったのも痛快だった。アコースティック・ギターをがしがしかき鳴らしながらロックンロールするトラヴェリング・ウィルベリーズも素晴らしかった。やがて、ルー・リードがニューヨークという街の詩情を改めてロックンロールに乗せて描き始めて。ニール・ヤングが轟音エレクトリック・サウンドと穏やかなアコースティック・サウンドとを絶妙のバランスで共存させるようになって…。
あと、もうひと組、絶対に忘れてはならないのが、この人たち。ジョージア・サテライツだ。
1980年、リード・シンガー/ギタリストのダン・ベアードを中心にジョージア州アトランタで結成されたごきげんなルーツ・ロック/サザン・ロック・バンド。メジャー・デビュー前からメンバーがけっこう流動的で、多くのミュージシャンが出たり入ったりしているのだけれど。基本的にベアードと、リード・ギタリストのリック・リチャーズを核に、リチャーズが地元アトランタで率いていたバンド、ザ・ヘル・ハウンズのメンバーだったリック・プライス(ベース)とマウロ・マジェラン(ドラム)が加わった顔ぶれがもっともアクティヴだった時期のラインアップ。
1986年、初のメジャー・リリースとなったシングル「キープ・ユア・ハンズ・トゥ・ユアセルフ」をいきなり全米2位に送り込み、アメリカのバールーム・ロックンロールは永遠だという胸のすくような事実をぼくたちに思い知らせてくれた。トラックの荷台に乗って演奏しているビデオクリップもなんだか不敵で、むちゃくちゃかっこよかったなぁ。
そんな彼らが1986年から1990年、米エレクトラ・レコード在籍期にリリースしたオリジナル・アルバム3作の全収録曲に、アルバム未収録のシングルB面曲、12インチ・シングル音源、ライヴ・ヴァージョンなどをふんだんにボーナス追加した胸躍るCD3枚組が本作だ。
CD1は1986年にリリースされた大傑作ファースト・アルバム『ジョージア・サテライツ』。例の「キープ・ユア・ハンズ・トゥ・ユアセルフ」を含む1枚だ。オリジナル収録曲10曲に加えてボーナスは8曲。1989年のEP『アナザー・チャンス』で世に出たルー・リードの「アイム・ウェイティング・フォー・ザ・マン」のカヴァーなどを含むライヴ音源5トラックをはじめ、ノース・カロライナ出身の知る人ぞ知るロッカー、テリー・アンダーソン作のセカンド・シングル「バトルシップ・チェインズ」の別ミックス2種、そして1993年のベスト盤に収録されていた「ハード・ラック・ボーイ」。
CD2は1988年のセカンド・アルバム『オープン・オール・ナイト』。リンゴ・スター作のビートルズ・ナンバー「ドント・パス・ミー・バイ」のカヴァーとかがちょこっと話題になった1枚だ。イアン・マクレガン参加の3曲を含むオリジナル収録曲11曲に加えて、ボーナス6曲。内訳は同年、トム・クルーズ主演映画『カクテル』のサウンドトラックにも収録されたカヴァー・シングル「ヒッピー・ヒッピー・シェイク」をはじめ、「シェイラ」のリミックス、ベスト盤収録の「オールモスト・サタデイナイト〜ロッキン・オール・オーヴァー・ザ・ワールド」のメドレー(リック・リチャーズのステイタス・クオ愛が炸裂!)、そしてライヴ3曲。
で、CD3が1989年、メンフィスで録音されたエレクトラからのラスト・アルバム『イン・ザ・ランド・オヴ・サルヴェイション・アンド・シン』。リック・プライスがヴォーカルをとったジョー・サウス「孤独の影(Games People Play)」のブギー調カヴァーとか、メジャー・デビュー前、1985年に出したEP収録作品の再録音も2曲含まれていた。ここにもイアン・マクレガンが参加。リトル・フィートに捧げた「シェイク・ザット・シング」にはニコレッタ・ラーソンもコーラスで参加。彼女はアコースティカルなバラード「スウィート・ブルー・ミッドナイト」でもいい味を出していたっけ。バンド・メンバーにとって最愛の1枚との噂も。
オリジナル収録曲14曲に、ボーナス5曲。内訳はアルバム未収録のシングルB面曲「サドル・アップ」と「ザット・ウーマン」、さらに「シェイク・ザット・シング」と「オール・オーヴァー・バット・クライン」のUSプロモ用エディット、そして「アナザー・チャンス」のUKシングル・ヴァージョン。
ダン・ベアードを含むバンド・メンバーたちの協力を得たコンピだとのことで、ブックレットには彼ら自身による興味深いライナーノーツや貴重な写真も。ただ、英チェリー・レッド傘下からのリリースゆえか、ディスコグラフィはUK仕様。収録曲全53トラック中13トラックがUKでは初CD化だとか。
ちなみにこのCD3枚組ボックス、チェリー・レッドのホームページにいくとすでに“アウト・オヴ・ストック”になっていて。てことは、今、市場に出ている分の輸入盤、あるいはなにやら3月から6月に発売が延びちゃったらしき国内流通盤(Amazon / Tower)をゲットしないと手遅れになる…的な? 最近、チェリー・レッドが各レーベルとの間でライレンス締結しつつ再発する盤は初回限定みたいな場合が多いので気をつけておきたいところです。