ヴォリューム 1/ニュー・ムーン・ジェリー・ロール・ロッカーズ
ぼくは以前からスクォーレル・ナット・ジッパーズというバンドが大好きで。ホームページをこのブログ形式にする前から新作が出るたびちょこっとずつではあるけれど取り上げて、こいつらいいよー、と盛り上がり続けてきた。
ポスト・パンク世代のネオ・スウィング・ミュージックみたいな。面白い切り口でルーツ・ミュージックというかグッド・タイム・ミュージックにアプローチするバンドで。いいバンドなのだけれども、そのぶん思いきりマニアックでもあり。21世紀に入ったころから活動が停滞して、一時解散してしまっていたこともある。が、その後、2007年だったか2008年だったか、そのあたりから活動再開して。ライヴ・アルバムも含め新作リリースもするようになって。
9月25日にはぴっかぴかのニュー・アルバム『ロスト・ソングズ・オヴ・ドク・スショーン』も出た。レトロなアレンジでマイナー・キーの「君の瞳に恋してる(Can't Take My Eyes Off You)」をやってたり。今回も一筋縄にはいかないごきげんな仕上がり。ただ、ストリーミングはあるんだけど、まだフィジカルを手に入れられてなくて。なんか、どこ行ってもちゃんと出ているのかどうかすらわからず。タワー・レコードのサイトだとタイトルも間違っているうえ、“取り寄せ”になってるし。アマゾン・ジャパンには影も形もないし。アマゾンUSでもジャケットだけは表示されるのに、値段も何も出てこない。どうなってるの? まあ、なんとか手に入れて、近々、本ブログでもピックアップしましょう。
その前に。
そんなスクォーレル・ナット・ジッパーズの中心メンバーであり、自身のバンド、ザ・トライ・ステイト・コーリションを率いてのソロ活動も活発に続けているジムボー・マサスと、こちらもごきげんなルーツ・ロック・アクトとして本ブログでも取り上げてきているノース・ミシシッピ・オールスターズのルーサー・ディッキンソン&コーディ・ディッキンソン兄弟とがタッグを組んだ夢のユニットが、今日ご紹介するニュー・ムーン・ジェリー・ロール・ロッカーズだ。
スクォーレル・ナット・ジッパーズはノース・カロライナを本拠に活動していたのだけれど、もともとミシシッピ生まれのジムボー・マサスは1990年代の半ばごろからちょいちょいミシシッピに里帰りするようになっていて。そのころ、ジム・ディッキンソンとルーサー・ディッキンソン親子と知り合って、多くの刺激をもらったらしい。ジムボーがジャス・マサス&ザ・ノックダウン・ソサエティ名義で1997年にリリースした「プレイ・ソングズ・フォー・ロゼッタ」とかはその流れで生まれた曲だった。
ちなみに、話はちょっと逸れるけれど、この「プレイ・ソングズ・フォー・ロゼッタ」という曲、ジムボーの子供時代のベビーシッターだったロゼッタ・パットンさんに捧げたもので。ロゼッタさんはなんとチャーリー・パットンの娘さん。いやいや。筋金入りっすね。
そんなふうに長年の付き合いになるジムボーとルーサーが中心となったルーツ・ミュージック・プロジェクト。といっても、これ、実は2008年1月の録音で。そのころ一緒にツアーをしていたチャーリー・マッスルホワイト、アルヴィ・ヤングブラッド・ハートらと意気投合したこともあり、一同、ミシシッピ州コールドウォーターにあるルーサー・ディッキンソンのゼブラ・ランチ・レコーディング・スタジオに集結。ジム・ディッキンソン御大もプロデューサーとして加わり、全員がスタジオ内で輪になって、あの曲この曲、オリジナルもカヴァーも交えて持ち寄ってきたレパートリーをほぼ一発録りでレコーディングした、と。
ただ、全体を取り仕切る親分的な存在だったジム・ディッキンソンが2009年に他界したこともあり、せっかくの豪華な録音は宙ぶらりん状態に。リリースされないままずっとお蔵入りしていた。が、そんな貴重な音源に目を付けたのがカナダのストーニー・プレイン・レコードのホルガー・ピータースン。なんとかリリースできないかとルーサー・ディッキンソンに持ちかけ、ルーサーもその要望に応えて最終的な仕上げをほどこし、今回、めでたく日の目を見ることとなった。
チャーリー・マッスルホワイトは自作「ブルース、ホワイ・ユー・ウォリー・ミー」と、メンフィス・ジャグ・バンドの「KCモーン」と、ジムボー作の「ストレンジ・ランド」。アルヴィン・ヤングブラッド・ハートはチャーリー・パットンの「ポニー・ブルース」と、マッスルホワイト作「ストップ・アンド・リッスン・ブルース」、そしてジミ・ヘンドリックスの「ストーン・フリー」(!)。ジム・ディッキンソンはガス・キャノンの「カム・オン・ダウン・トゥ・マイ・ハウス」とウィルバート・ハリソンの「レッツ・ワーク・トゥゲザー」。ジムボーは自作の「ナイト・タイム」と、やはりチャーリー・パットンの「シェイク・イット・アンド・ブレイク・イット」。
雑っちゃ、ものすごく雑な録音ではあるけれど。バックを的確に固めるルーサー&コーディ・ディッキンソンも含めて参加メンバー全員の“熱”のようなものが痛快に伝わってくる1作。ルーサーのギターもかっこいい。いい味出してます。リズム隊はコーディのドラムと、やはりノース・ミシシッピ・オールスターズ人脈のクリス・チューのベース。世代を超えたルーツ・ロッカーたちの実にカジュアルな交歓って感じか。ありがたく聞かせていただきます。
アルバム・タイトルからも想像できる通り、来年には『Vol.2』のリリースも予定されているみたい。楽しみ!