Disc Review

Jose “Chepito” Areas / Jose “Chepito” Areas (Sony Music Japan)

チェピート/ホセ“チェピート”アリアス

プリンスの『サイン・オブ・ザ・タイムズ』のスーパー・デラックス・エディション。数日前、そのうち本ブログでも紹介しようかな…的なことを軽々しく書いたのだけれど。なんか、ボリューム的にも、内容の熱量的にも、ものすごすぎて。このスーパー・デラックス版をめぐる特集号とか書籍とかもいっぱい出ていて。Web上でも熱く熱く語っていらっしゃる方々がたくさんいて。

それだけでけっこうおなかいっぱい。ぼくごときが今さら紹介エントリーをアップする意味もなさそうなので、やめることにしました(笑)。

刹那と永遠と。真面目と不真面目と。デジタルとアナログと。黒人音楽の伝統に対する限りない敬愛と、それを粉砕して突き抜けようとする先鋭的な感覚と。敬虔な神への愛と淫らな邪念と。『サイン・オブ・ザ・タイムズ』ってアルバムには様々なパラドックスが渾然とスリリングに渦巻いている。軋みを上げてスパークしている。だからプリンスの音楽は面白い。ソウルだロックだという枠組みを軽々と飛び越えて、ぼくたち聞く者の下半身を直撃する。

その背景にはたぶん、1960年代にミネアポリスで爆発したサイケデリックなガレージ・ロックンロール・シーンの混沌とかが横たわっているはずで。プリンスを熱く語る方々には、ついでだから、そのあたりもぜひじっくり掘り下げてもらいたいものだなとムシのいいことを願ったりする他力本願なハギワラなわけですが。

そんなこんなで、今日は別の再発ものを軽く紹介してお茶をにごすことにしたのでありました。といっても、取り上げる作品自体は強力なやつで。下半身直撃って意味じゃプリンスにもまったく引けを取らない、いや、むしろ凌駕するくらいごっきげんな1枚。46年前にリリースされた大名盤、“チェピート”ことホセ・アリアス唯一のソロ・アルバム『チェピート(Jose “Chepito” Areas)』だ。

これ、国内盤が9月23日に出て。“世界初CD化”と大々的に謳われているのだけれど。5年くらい前に海外でストリーミングとか、ハイレゾも含むダウンロード販売とかがスタートしていて。その際、ラテン・ロック・マニアのスジで小さく話題になったっけ。なので、再発としては“初”というわけでもなく。一瞬、あれ? と思ったものの。要するに、フィジカルでの再発は今回が初…ということなのかな。よくわからないけど。何にせよ、この名盤が再度脚光を浴びるのだから、ほんと、めでたいことです。

チェピートは中米ニカラグア出身。サンタナのオリジナル・メンバーのひとりとして、ティンバレスをメインに、ボンゴ、コンガなど強力なパーカッション・プレイで1970年代アタマ、まだラテンの何たるかなどまったく知らなかったぼくたち日本の音楽ファンにとてつもないショックを与えてくれた恩人でもある。

本作は1974年のリリース。ミュージック・マガジン誌とかの盛り上げによってサルサを含めた新世代ラテン音楽が日本でもちょっとしたブームになっていくちょっと前のことだった気がする。ぼくもサンタナの伝説的な来日公演とかに煽られながら本盤を手に入れて、サンタナ同様ロックのニュアンスも大きく取り込んだ圧倒的なキューバン・グルーヴに、まだまだラテンのことをよくわかってないなりに思いきりクラクラさせられたものです。

中村とうようさんのライナーノーツ(今回、復刻されてました!)も、西海岸と東海岸のラテン・シーンの違いとか、まあ、今の視点で読み返すとずいぶん雑なものではあったのだけれど、そのあたりを大雑把に把握するうえで助けになって。いろいろお世話になった1枚だ。

チェピート人脈のラテン・ミュージシャン群が大挙結集してサポート。加えて、初期サンタナ仲間のニール・ショーンやダグ・ローチ、リチャード・カーモード、トム・コスター、さらにはスライ&ザ・ファミリー・ストーンのグレッグ・エリコ、マロのハドリー・カリマンらも曲によって参加している。

冒頭、プリンスに関して記した文章をまるっとそのまま流用すると、ラテン音楽の“伝統に対する限りない敬愛と、それを粉砕して突き抜けようとする先鋭的な感覚”。こいつを全開にしながら、チェピートは仲間たちとともに、サルサ、マンボ、ルンバ〜ワワンコ、アフロ・ビート、ロック、ソウル、ジャズ、ファンク…多彩な音楽性を、柔軟に、刺激的に、交錯させてみせているわけだ。まじ、かっこいい。

個人的には、サルサへの興味を思いきりかき立ててくれた「グアラフェオ」、ティンバレス・プレイが圧倒的な「ファンキー・フォルサム」、ハチロクというか三連というか、強烈なグルーヴの魅力を叩き込んでくれた「バンベヨコ」というアナログA面の曲たちと、ちょいメロウでソウルフルなB面1曲目「モーニング・スター」あたりが特にお気に入りでした。

今回、同時にサンタナのファースト・アルバム『サンタナ』(1970年)の50周年記念盤も出た。これ、これまでに本ブログでも取り上げてきたマイルス・デイヴィスとかハービー・ハンコックとかと同じ“SA-CDマルチ・ハイブリッド・エディション”の一環。7インチ紙ジャケットに4チャンネル・ミックスおよび2チャンネル・ステレオ・ミックスの最新リマスター・ヴァージョンを併録した1枚だ。これも最高に野蛮でよいです。大好き。来月末にはセカンド・アルバム『天の守護神(Abraxas)』も同仕様で出るみたいだ。

サンタナはやっぱりどアタマ3作だよなぁ。そして、そこではチェピートががっつり存在感を発揮していたのでありました。ぼくは特に3作目でのタワー・オヴ・パワー・ホーン・セクションとのタッグにノックアウトされたクチなのだけれど。ホーンとパーカッションの激しい応酬と、その間隙を縫いながらうねるブルージーなエレクトリック・ギターとファンキーなオルガン…みたいな。そういう構造としては、むしろこのチェピートのソロ・アルバムのほうが凄まじいわけで。

燃えます!

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