セルフ・メイド・マン/ラーキン・ポー
オールマン・ブラザーズ・バンドの妹分、とか言われたりすることもある強力なルーツ・ロック姉妹、ラーキン・ポー。レベッカとメーガンのローヴェル姉妹、二人とも現在30歳前後なので、まあ、年齢から言うと全然、妹とかじゃなく、明らかに娘、ヘタすると孫世代ではありますが(笑)。彼女たちが偉大な先達から雄々しく受け継いだディープでブルージーでパワフルなロック・スピリットをまたまた存分に堪能できる新作が登場した。
アトランタ生まれで、現在はナッシュヴィルが拠点。ずぶずぶに南部。まあ、このブログを読んでくださっている方にならば説明不要のこととは思うけれど、改めて流れを振り返っておくと。もともとはもうひとりのお姉さん、ジェシカも加えた3人組でローヴェル・シスターズと名乗り、ブルーグラスとかやっていて。でも、2010年にその3人組は解散。心機一転、レベッカとメーガンの二人を核に、ディープなルーツ・ロック路線へと方向転換しつつ、強力なEPを連続リリースしながら再スタートを切った。
ちなみに、これまたおなじみの話題だろうけれど。彼女たちはエドガー・アラン・ポーの遠い親戚にあたるそうで。ラーキン・ポーというのは南北戦争時代を生きた姉妹の曾々々祖父の名前なのだとか。2014年にTボーン・バーネットが彼女たちを『ニュー・ベースメント・テープス』のレコーディングに起用したあたりから徐々に注目度を上げて、その年のグラストンベリー・フェスでのパフォーマンスが大いに話題を呼んで…。
すでにフル・アルバムも4作リリースずみ。今回の新作『セルフ・メイド・マン』が5作目だ。去年に続いて今年も来日する予定だったものの、新型コロナウイルス禍で中止に。その来日ツアーは当然、今回の新作リリースに合わせてのものになるはずだったわけだけれど。いやいや、この新作、彼女たちのさらなる成長を感じさせるむちゃくちゃかっこいい仕上がりなだけに、来日中止が残念でなりません。
おねーちゃんのメーガンの粘っこいラップ・スティールと、妹のレベッカの太くゴリゴリのギターと。今回も両者が絡み合いながらの超ごきげんなリフの嵐。痛快だ。オープニング・ナンバーでもある表題曲は、もう、1960年代末を想起させる躍動的なブルース・ロックで。イントロからしてレッド・ツェッペリンの「グッド・タイムズ・バッド・タイムズ」みたい。冒頭、数小節だけでおじさんの気分は一気にアガっちゃうのでした。
ダーティなブルース・センスと、ソウルフルなロック・スピリットと、グルーヴィなゴスペル・フィール。アメリカの南部では今なお往年のブルースマンたちが歌っていたストリートがそのままのオーラを放ちつつ機能しているんだろうなと思わせてくれるアルバムだ。前作に引き続きゲスト参加したレベッカの夫、タイラー・ブライアントのギターがうなる「バック・ダウン・サウス」とか、リトル・リチャード、チャーリー・ダニエルズ、ジェイムス・ブラウン、オールマン・ブラザーズ・バンドなどに言及しつつ南部音楽の伝統に対する深い敬意を表明した1曲で。もう最高。
とはいえ、レトロなばかりじゃない。音圧とか音質はきっちり今の時代ならではのものに仕上げられているし。歌詞にも、今の時代のアメリカに生きる女性ならではの視点みたいなものが込められていたりして。面白い。姉妹のオリジナル曲はもちろん、ブラインド・ウィリー・ジョンソンで知られるトラディショナル・フォーク・ブルース「ゴット・ムーヴズ・オン・ザ・ウォーター」とかにも、今の時代に歌うための歌詞が書き足されている。彼女たちなりの“今”へのこだわり。そのあたりの意識は高そうだ。
まじ、頼もしいです。