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Disc Review

Before the Beginning: 1968-1970 Live & Demo Sessions / Fleetwood Mac (Maxwood Music/Sony)

ビフォー・ザ・ビギニング1968-1970~ライブ&デモ・セッションズ~/フリートウッド・マック

『ミュージック・ライフ』誌の新譜紹介コーナーで初めてフリートウッド・マックの『英吉利の薔薇(English Rose)』のジャケット写真を見たときの衝撃は忘れない。女装したミック・フリートウッドがとんでもない顔して大写しになっている、あれ。ちょうど50年前のこと。1969年の話だ。

もちろん、ご存じの通り、このアルバムは本国イギリスで68年に出たセカンド『ミスター・ワンダフル』の収録曲から6曲をピックアップして、さらに未アルバム化シングル音源とか、未発表曲とか、まだリリースされていなかった英サード・アルバム『ゼン・プレイ・オン』に収録予定だった曲とかを集めてアメリカで編纂されたベスト盤だった。

とはいえ、日本ではこれがマックの初リリースだったし。初めて見たものを親と思う的な、当時まだブルースの何たるかもまったく知らない中学生としてこのアルバムに出くわしちゃったぼくのような世代の洋楽ファンにとって、フリートウッド・マックといえばもう間違いなくこれ、みたいな。そういう意味でも、どうしたって抗いようのない、大切な1枚なのだ。

その後、70年代半ばになって『ニュー・ミュージック・マガジン』とか読みながら、少しずつではあったけれどモノホンの米国ブルースに真っ向から接することができるようになるまで、日本で普通にラジオとか聞きながら体験できた黒人ブルースマンといえばせいぜいB.B.キングくらいで。それも「スルリ・イズ・ゴーン」的なやつ。

そんな情弱な時代だったから。英国勢としてはこのピーター・グリーン在籍時の初期マックとジョン・メイオールとチキン・シャック。米国勢ではキャンド・ヒートとポール・バタフィールドとマイケル・ブルームフィールド。当時、そうした白人ブルース・ロック・アーティストたちから教わったことは本当に多かった。ニセモノ呼ばわりされたりしたこともなくはなかったけれど、彼らの若き情熱がその後のブルース・リバイバルの気運を盛り上げたことは確かだ。

というわけで、そんな初期マックの未発表音源集。今年の6月くらいから出る出ると予告だけ何度もされていたものだけれど、11月になってようやくちゃんと出ました。紹介しそびれていたのだけれど、ちょっと遅れてのピックアップです。

CD3枚組で、ディスク1からディスク2の途中までが1968年のライヴ。これはピーター・グリーンとジェレミー・スペンサーという強力なツイン・ギターをフロントに、ミック・フリートウッドとジョン・マクヴィーがバックアップする4人組時代の演奏だ。以降、ディスク3の途中まで1970年のライヴ。こちらはさらにダニー・カーワンが加わった5人組での演奏。で、再び1968年のライヴが何曲か入って、ラスト4曲がスタジオ・デモ。ライヴ37トラック+デモ4トラックの計41トラック。

どういう目的で録音されていたライヴ音源なのかは謎。録音場所とか日時とか詳細なデータは不明だ。同じ曲が何度か出てきたりもするので、複数会場での収録だと思われるものの、保存状態は概ね良好。ギターの定位が左右に動いたり、スライドをこすってる残響が違うところから聞こえてきたり、なんか妙なところもなくはないのだけれど、十分フツーに楽しめる。うれしい。

前述『英吉利の薔薇』のラストを飾っていた異色曲、ビートルズがパクったことでもおなじみ「アルバトロス」のライヴも入っている。その辺の5人組での演奏も興味深いのだけれども、やはり4人のころの演奏がたまらない。人種の壁を超えブルースという音楽に向かってやみくもに無謀な突進を繰り広げていた時期ならではの、若く、青く、熱いパフォーマンス。こういうの、いいよねぇ。

もちろん、この時期のピーター・グリーンは最高なのだけれど。情熱がほとばしりすぎてピッチが思いきり甘くなっちゃいがちなジェレミー・スペンサーのスライド・ギターがまたごきげんです。70歳代を迎えたピーター・グリーン本人が当時について語った貴重なコメント満載の44ページの英文ブックレット付き。

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© 2020 Kenta Hagiwara