MTVアンプラグド・ライヴ・イン・メルボルン/コートニー・バーネット
このアルバム・タイトル眺めながら、どうしても二重映しにしてしまうのはやはりニルヴァーナが1994年にリリースした傑作『MTVアンプラグド・イン・ニューヨーク』。
エレクトリック・ギターをかき鳴らし爆裂する轟音ロックに乗せて赤裸々な内省をぶちまけるニルヴァーナもむちゃくちゃよかったけれど、楽器をアコースティックに持ち替え、一転シンプルな音作りのもと収録されたあのアンプラグド・アルバムも素晴らしかった。あれを聞いて、改めて中心メンバー、カート・コベインがいかに優れたシンガー・ソングライターであったか思い知ったものだ。
アンプラグドというフォーマットはそんなふうに、そのアーティストの音楽的な骨格を生々しく浮き彫りにしてくれる。今日ピックアップしたオーストラリアの女性シンガー・ソングライター、コートニー・バーネットによる本作もそういう1枚だ。
といっても、ここに収められた全8曲中、彼女がソロで自作レパートリーを披露しているのは、今回初出となった未発表曲「アンタイトルド(プレイ・イット・オン・リピート)」も含めて半分の4曲。あとは信頼する音楽仲間とのデュエットと、多くの影響を与え触発してくれた偉大な先達、レナード・コーエンの楽曲のカヴァー。ということでこのアンプラグド・ライヴ、彼女は自らの音楽活動の歩みを振り返る機会としてではなく、信頼する音楽仲間のショウケースとして、あるいは自らのルーツ表明の場として、有効に使ってみせた感じ。
2015年の初フル・アルバム『サムタイムス・アイ・シット・アンド・シンク、サムタイムス・アイ・ジャスト・シット』収録の「デプレストン」で幕開け。続く「サンデー・ロースト」は2018年のアルバム『テル・ミー・ハウ・ユー・リアリー・フィール』の収録曲。バーネットのアコースティック・ギターに、ドラム、ベース、チェロという編成でシンプルに聞かせていく。
と、ここで、1970年代末から様々なバンドのメンバーとして、あるいはソロとして活動してきたオーストラリアのベテラン・アーティスト、ポール・ケリーをゲストに迎え「チャコール・レイン」なる曲を披露。この曲はケリーと古い付き合いになるオーストラリア先住民のシンガー・ソングライター、アーチー・ローチの作品。先住民たちがいかに厳しくつらい歩みを強いられてきたか、実体験に基づきながら描く1曲だ。こうした人選〜選曲もまたバーネットの雄々しいアイデンティティ表明なのだろう。
続いては、エルヴィス・プレスリーの「オール・シュック・アップ」の歌詞の引用なども含む2013年のデビュー・ヒット「アヴァン・ガーデナー」。この曲には同じミルク・レコードに在籍する同郷オーストラリアのシンガー・ソングライター、イヴリン・アイダ・モリスがピアノ演奏で参加する。
モリスがそのまま居残り、『テル・ミー・ハウ・ユー・リアリー・フィール』の収録曲「ネイムレス、フェイスレス」で、ピアノだけでなくデュエット・ヴォーカルも聞かせるのだが、ここでの二人のパフォーマンスがとてもいい。ポップなバンド・アレンジがほどこささていたスタジオ・ヴァージョンから一転、モリスのピアノだけをバックに、ぐっとテンポを落とした静謐なバラードとして聞かせる。女性が男性と対峙する際、否応なく意識せざるを得ない暴力や威嚇に関するもろもろをテーマに据えた曲だけれど、このライヴ・ヴァージョンでのバーネットとモリスの語り合うような歌声のやりとりが歌詞の意味をより際立たせる。
前述した「アンタイトルド(プレイ・イット・オン・リピート)」がここで初披露されて、再びゲスト。ニュージーランド出身のシンガー・ソングライターであり、俳優でもあるマーロン・ウィリアムスを迎えて「ノット・オンリー・アイ」という曲がデュエットされる。これもまたオーストラリアのバンド、シーカー・ラヴァー・キーパーのレパートリーのカヴァーだ。そして、ラスト。バーネットは敬愛するレナード・コーエンの「ソー・ロング・マリアンヌ」を弾き語りして、アンプラグド・ライヴの幕を下ろす。
この真摯な「…マリアンヌ」も、まじ泣けます。