コロラド/ニール・ヤング
1曲目、いきなり飛び出してくるのが♪ぷわ〜っというハーモニカ。ドン・タッ・ドン・タッという、余計なことを何もしない、淡々とした、でも平気でちょっとハシったりもしちゃう、とはいえ一体感はけっして失わないリズム・セクション。深い音色のアコースティック・ギター。ふくよかなコーラス・ハーモニー…。
アルバム冒頭から既視感たっぷり。既視感だらけ。でも、たまらない既視感。超うれしい既視感。この人たちにしか作り出し得ない既視感。やばい。胸がときめく。
で、そのあとも、轟音エレクトリック・ギターによるコード・カッティングあり。印象的にリピートするⅡ→Ⅴ進行あり。ゴツゴツと繰り出され続ける果てなき長尺フィードバック・ギター・ソロあり。ヘヴィな展開の中、突如鳴り響くメジャー・セヴンス・コードあり。アコースティック・ピアノで軽くハネながら奏でられる美しいイントロあり。自らの歩みを内省的に綴ってみたり、俺のアタマをイカれさせてくれと激しく懇願してみたり、環境問題や政治に対して辛辣なメッセージを投げかけてみたり、曲によってくるくる表情を変える歌詞あり…。
やっぱりニール・ヤングにとってクレイジー・ホースは特別なのだな、と思う。かつて、ジム・ジャームッシュ監督によるドキュメンタリー映画『イヤー・オブ・ザ・ホース』で、ヤングさんが「ニール・ヤング。クレイジー・ホースのギタリストだ」と自己紹介していたシーンが印象的に思い出される。“ニール・ヤング&クレイジー・ホース”ではなく、ただの“クレイジー・ホース”であるということ。
1975年以来、ずっとともに活動してきたギターのポンチョ(フランク・サンペドロ)が、前回、2013年のツアーで腕を怪我して離脱。その後、年齢的なこととか、体調問題とか、いろいろあってポンチョはリタイアを宣言してしまったものの、代わりに旧友ニルス・ロフグレンが加入。ヤング、ロフグレン、ビリー・タルボット、ラルフ・モリーナという、これはこれでものすごく魅力的なラインアップでクレイジー・ホースは去年、数回のコンサートを行なった。
ニール・ヤングはこのところ、頼れる若き後輩ルーカス・ネルソン率いるプロミス・オブ・ザ・リアルとのコラボレーションが多いのだけれど、やはりクレイジー・ホースでの演奏は格別なのだろう。去年のコンサートでの共演で確かな手応えを感じて、曲作りを開始。今春、コロラドのロッキー・マウンテン・スタジオでほぼ一発録りのようなスタイルでレコーディングが行なわれ、めでたくニュー・アルバムが完成した。クレイジー・ホース名義では2012年の傑作『サイケデリック・ピル』以来の1作だ。
数え方によっていろいろ違いそうだけれど。スタジオ・アルバムとしてはたぶんこれが通算41作目。ライヴとか、アーカイヴ・シリーズとか入れたら軽く60作は突破する。もうすぐ74歳。でも、止まらない。カンペーちゃんみたいに、止まると死ぬ、みたいな?(笑)
誰よりも激しく怒り、切実に吼え、優しく癒やし、温かく慈しみ…。そんなふうに雄大な振り幅を行き来しながら止まることなく活動し続けるニール・ヤングという個性を、もっとも魅力的に、のびのびと輝かすことができる“環境”がクレイジー・ホースということか。そういう事実を明解に思い知らせてくれる力強い新作だ。このレコーディング・セッションの模様は映像作家のC・K・ヴォリックの協力の下、ヤングさん自ら監督した『マウンテントップ』というドキュメンタリー映像に記録された。北米ではアルバム発表と同時に公開されたみたい。予告編見ると、ごくフツーにアナログ・マルチが回ってるし。たまりません。ヤングさんもファッキン、ファッキン言いまくっていて。おじいちゃん、相変わらずお元気(笑)。
長い歳月、ともに時を刻んできた同世代の仲間ってのはいいね、やっぱり。