ラヴ・スターヴェイション/ニック・ロウ
ロス・ストレイトジャケッツというバンドが気になりだしたのはいつだったか…。
サーフ・パンク・ムーヴメントとかが盛り上がった1980年代初頭、けっこう話題になったこともあるレイビーツというバンドで活躍していたごきげんなギタリスト、ダニー・エイミスを中心に、1988年、ナッシュヴィルで結成されたエレキ・インスト・バンド。ぼくがその存在を初めて知ったのはずいぶん後になってからで。確か1999年。彼らのサード・アルバム『ザ・ヴェルヴェット・タッチ・オヴ・ロス・ストレイトジャケッツ』を買ったときのことだ。
ジャケットを見て、妙に気になった。覆面レスラーみたいなマスクをかぶったメンバーの顔写真が4つ並んでいて。変なやつらがいるなと、とりあえず購入。で、聞いて驚いた。ダニー・エイミスのリード・ギターに貫かれている乾いたセンスにまずやられて、さらに収録曲目にやられた。全部で12曲くらい入っていて、基本、メンバーによるオリジナル・インスト中心だったのだけれど、その中にベニー・グッドマンでおなじみの「シング・シング・シング」と、セリーヌ・ディオンの『タイタニック』の曲「マイ・ハート・ウィル・ゴー・オン」のカヴァーが…!
セリーヌ・ディオンのエレキ・インスト版って…(笑)。やー、そこ来たか、と。感心しちゃって。
というのも、誰もが知ってる往年の名曲とか、最新ポップ・ヒットとかを、ジャンルの分け隔てなくカヴァーしまくるというのは、もう、エレキ・インスト・バンドとして実に正しい姿勢なわけで。そんなことからも大いに好感を持った。ぼくもダディ&ザ・サーフビーツというインスト・バンドでよくライヴをやっていた時期でもあり、このロス・ストレイトジャケッツ、とてつもなく気になる存在となったのだった。
まあ、それ以来、付かず離れず、彼らの活動を追いかけてきたのだけれど。そんなロス・ストレイトジャケッツが数年前、ニック・ロウと本格的にタッグを組んだときは大いに盛り上がった。2014年末、彼らはニック・ロウの“クオリティ・ホリデイ・レヴュー”のツアー・バンドに起用され、翌年にはそのときの模様がライヴ・アルバムになってリリースされたのだ。絶妙なコンビネーションだった。
もちろん、これが初共演というわけではなく、ぼくが初めて買ったロス・ストレイトジャケッツのアルバムの次作、彼らが2001年にリリースした4作目『シング・アロング・ウィズ・ロス・ストレイトジャケッツ』というやつに1曲だけニック・ロウが参加していたことがある。このアルバムはたくさんのゲスト・シンガーを迎えて、多彩な曲をカヴァーした盤だったのだけれど、その中でニック・ロウが歌とベースを担当しながら「シェイク・ザット・ラット」を演奏していた。
なので、2014年末にツアーで共演すると聞いたときもさほど驚きはしなかったものの、でも、ちょっと前、ブルース・スプリングスティーンの新曲を話題にしたときにも触れたことながら、それまでとりあえず別個に好きだった二つのものが一気につながる瞬間というのは、もう何よりうれしいわけで。ニック・ロウとロス・ストレイトジャケッツのタッグも、ぼくにとってはそんなもののひとつだった。2017年にはロス・ストレイトジャケッツがニック・ロウ作品ばかり取り上げた『愛しのニック・ロウ・ショー』なんてアルバムも出たし、去年の4曲入りEP「トーキョー・ベイ」でも息の合ったところを聞かせてくれた。
と、そんな両者の共演EPがまた出たので、ご紹介します。また今年のツアーに合わせて用意されたという4曲入り。ストリーミングはあるものの、基本、海外でフィジカルはコンサート会場でのみ販売するようで、盤が一般発売されるのは日本のみだとか。
乾いたラティーノ・ロックンロール風味がごきげんなタイトル・チューン「ラヴ・スターヴェイション」のほか、切ない失恋ソング「ブルー・オン・ブルー」、ティファナ・ブラスのトランペットをトロンボーンに置き換えたようなアンサンブルをバックにロイ・オービソンが歌ってるみたいな「トロンボーン」という3曲のオリジナルに、サミー・ターナーが1961年にリリースしたシングル曲「レインコート・イン・ザ・リヴァー」のカヴァー。このマニアックなカヴァーのセンスがたまらない。これ、アーロン・シュローダーと、たぶんフローレンス・ケイとが共作した曲で、フィレス・レコード設立以前のフィル・スペクターのプロデュース作品。いいとこ持ってきます。前EPでもビージーズというか、ディオンヌ・ワーウィックのヒットをカヴァーして泣かせてくれましたが、今回もお見事。
「クルエル・トゥ・ビー・カインド」や「ピース、ラヴ・アンド・アンダスタンディング」みたいな必殺の超名曲があるわけではないけれど、やっぱりこの人たち最高だなと思わせてくれる4曲。このロウ/ストレイトジャケッツのコンビネーションでぜひフルのスタジオ・アルバムを作ってもらいたいものです。お願いです。