Disc Review

How Great Thou Art (FTD Special 2CD Edition) / Elvis Presley (Follow That Dream)

ゴールデン・ヒム〜偉大なるかな神(FTD 2CDエディション)/エルヴィス・プレスリー

渡辺康蔵氏をゲストに迎えるCRTジャズ夏まつりも目前。楽しみです。

前からCRTでもジャズを取り上げたくて。みんなで機会をうかがっていたのだけれど。今回ようやく実現。実は音楽ライターとしての本格的出発点が『Jazz Life』誌だったぼくとしても感慨ひとしおであります。携帯とかiPhoneとかでこのブログ見てくださっている方には見えないかもしれませんが、webモードで左の情報欄をチェックして、おひまな方はぜひ参加してみてください。

スウィンギン・バッパーズをはじめ多くのユニットで大活躍中のアルト・サックス奏者でもあるコーゾー氏と、子供のころから親しんできた“魂の解放”系フリー・ジャズがいい意味でも悪い意味でもあの自由な人格形成に大きな影響を与えたのであろうノージと、絶対にチャーリー・ワッツ・オーケストラが大好きであろう(笑)テラ坊と、ポップでソウルフルでファンキーなジャズに目がないハギワラと。それぞれの視点から、今、かっこよくジャズを聞く切り口のようなものをプレゼンできるんじゃないかなぁ、と。ぼくたちも楽しみにしてます。鋭意予約受付ちゅう。お休みの夏の夜、いかしたジャズでメートルあげましょう。

そういや、昔、夏のフェスといえばジャズ・フェスのことだったんだけどなぁ…。

と、業務連絡を終えたところで。今回のピック・アルバムはジャズとは全然関係なく(笑)。エルヴィスです。エルヴィス・プレスリーの未発表音源をものすごい勢いで公式リリースし続けるフォロー・ザット・ドリーム・レーベルからの新着盤。67年のアルバム『How Great Thou Art(ゴールデン・ヒム)』のアップグレード・ヴァージョンですよ! エルヴィスが生前に遺した3枚のゴスペル/セイクレッド・ソング・アルバムのひとつ。そのレコーディング・セッションで録音された音源を総まくりした2枚組だ。

もともと敬虔なクリスチャンだったこともあり、エルヴィスの宗教歌は実にしみる。日本人にキリスト教は関係ねぇよ、とおっしゃる方もいるかとは思うけれど、そんなこと飛び越えて胸にくる。歌声に雑念がまるでないんだもん。売れてなんぼのポップ・ミュージック・シーン。金と利権をめぐる権謀術数が渦巻く商業音楽の世界。ミュージシャンも、楽曲も、全てが商品でしかない。けど、そんな世界にも、本当にピュアでイノセントな音楽は存在しうるんだ、と。エルヴィスのゴスペルは思い知らせてくれる。

エルヴィスはデビュー前、1953年にゴスペル・カルテットのオーディションを受けている。そのときはうまくいかなかったようだけど、その後、メジャー・デビューを飾ってからも、エルヴィスはレコーディングの際、必ずジョーダネアーズ、インペリアルズ・カルテット、ヴォイスなど白人男性ゴスペル・グループをそばに置いて、休憩時間にピアノを囲んで大好きなゴスペルを次々歌いまくっていた。デビューして人気爆発して以降、まさか今さらゴスペル・グループに入るわけにもいかず、ならばゴスペル・グループのほうを呼んでしまえ…ということだったのかな。かつて、60年代ボックスのライナーでも大滝詠一師匠が指摘されていたと思うが、エルヴィスは自分の中の区切りを必ずゴスペル・セッションで付けている。迷ったとき、疲れたとき、壁にぶち当たったとき、エルヴィスはゴスペルや賛美歌を無垢に、淡々と歌い綴ることによって、過酷な芸能活動の中でふと忘れがちになる自らのルーツを無意識のうちにも見直そうとした。

というわけで、本盤。時期的には68年に始まる伝説的なカムバックの直前。最後の黄金時代へと向かううえでの重要な一区切り時期だ。66年5月のゴスペル・セッションで生まれたオリジナル・アルバム収録曲のマスター・テイクはもちろん、膨大なアウトテイクがどっさり詰まっている。加えて66年6月と67年9月に録音された宗教歌やクリスマス・ソングのマスター・テイクとアウトテイクもボーナス収録。破壊的/衝動的なロックンロール感覚と、静かで敬虔なゴスペル感覚。この両者をきっちり、見事に、持ち合わせていたからこそ、エルヴィスは世紀を超えて記憶されるべき存在になり得たんだな、と。今さらながら圧倒される。

無垢なエルヴィス。最高です。もちろん、そんなふうに歌われた、飾り気のない、敬虔な歌声を、プロデューサーやマネージャーは売り物になると判断。だからこそレコード化も、再発も実現するわけで。ここには相も変わらず飽くなき商魂が渦巻いているのだけど。しかし、盤面に刻み込まれたエルヴィスの歌声は違う。そこにはひとかけらの作為もない。誰のためでもない、自分の心の平静を求めるピュアな歌声があるだけ。神への敬虔な思いを、誰に歌いかけるでもなく、内なる自分に向けて淡々と歌い綴るエルヴィス。この無垢さが聞く者の心を心底和ませてくれる。慰めてくれる。諭してくれる。そして、単に耳当たりがいいだけの“癒し系音楽”とやらの大ウソを思い知らせてくれる。

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