ドリームズ・カム・トゥルー〜幻のサード・アルバム/ジュディ・シル
インターネット・ラジオを始めたら、好きな曲というか、今の時代に聞いてかっこいい曲というか、そういうものをガンガンかけて、たくさんの同好の士と「いいねー」という気分を共有することがわりと簡単にできるようになっちゃって。ますますホームページに何か書くという作業から遠ざかりつつある今日このごろです(笑)。今さらながらだけど、音楽の聞こえない環境のもとで音楽を語るってことはむずかしいね。精進します。
先日のCRT@プラスワンでの「オールディーズをどり」。本当に多数のご来場、感謝します。あのときも思ったのだけれど。特に50~60年代のオールディーズ・ポップスのような音楽の場合、「いい曲だねー」「たまんないね」「胸がきゅっと切なくなるね」みたいな、まあ、なんというか、別にとりたてて文章にする必要もない感想のようなものしか口をついて出ないわけで。それ以外にあえて何かを語るとすれば、ソングライターが誰で、プロデューサーが誰で、とか。あるいは、業界的な意味合いとか。あまり本質的ではない部分の話ばかり。そういうマニアックな話題も楽しいっちゃ楽しいものの、それのみを目的に音楽を聞く気にはならないし。
そんなこんなもあって、この種のポップスは文字中心の音楽ジャーナリズムの世界では思い切り軽視され、下等な音楽のように扱われたりもするのだけれど。コンセプトだのテーマだのをアタマで反芻しなければその音楽ないしミュージシャンの存在価値が確認できないようなタイプの小難しいものよりも、イントロ一発聞くだけで胸が切なくなったり、かっこいいっ!と思わず口元がゆるむタイプの音楽のほうこそを、ポップ音楽の根本だと信じて、これからのリスニング・ライフを充実させていきたいものだなとの思いを新たにするわけです。
来月のCRT@プラスワンはブルース・スプリングスティーン・ナイト。スプ親分の音楽も、人によっては小難しい方面というか、理屈っぽい方面からの解析をほどこしながら楽しんでいらっしゃるようだけれど、プラスワンではオールディーズ、ルーツ音楽ひっくるめたアメリカ音楽に深い愛情を表明する屈指のロックンローラーとしてのスプリングスティーン像にスポットを当て、その強力なかっこよさを痛快に楽しみたいなと考えてます。お楽しみに!
そうだ。あと、健'z。セカンド・アルバム、完成しました。7月発売です。今回は健'z with Friends って形で、4人編成での作品。ぼくのアコースティック・ギターと、黒沢健一、曾我泰久、高田みち子のヴォーカル/ハーモニーのみで仕上げました。ファースト・アルバム同様、全曲カヴァーです。ダリアン・サハナジャが素敵なメッセージも寄せてくれてます。これも理屈方面でなく、音像一発で何か感じていただければうれしいな、と。リリースやライヴに関する詳細など、決まりましたらお知らせします。よろしくね。
もろもろの反日問題とか、高田渡さんの訃報とか、ジャイアンツの不調とか(笑)、ヤンキースのさらなる不調とか。なかなか心が落ち着かぬ日々。でも、ぼくはやはり音楽で癒やされています。今回のピック・アルバムはジュディ・シル。70年代、アサイラム・レコードに2枚のアルバムを残しただけでひっそりとシーンから姿を消してしまった女性シンガー・ソングライターだけど。3枚目の新作の制作も進んでいたものの、結局はお蔵入り。以降、ほとんど消息がつかめなかったのだが、79年、突然訃報が届いた。生涯彼女を苦しめ続けたドラッグの過剰摂取により、33歳という若さで他界。まさにミステリアスな存在だったわけだが。
そんな彼女の幻のサード・アルバムが発掘された。心底驚いた。デモ音源、60年代の未発表音源、73年のライヴ映像などを加えた2枚組でのリリース。本当にうれしい。
彼女の作品はどれも素晴らしい。ぼくは特に73年のセカンド『ハート・フッド』が大好きだった。ギターやピアノだけをバックに展開する、いかにもシンガー・ソングライター味の作品から、コープランドのクラシック曲あたりを思わせるオーケストラ・アンサンブルまで。ジュディの才能が凝縮された豊かな1枚。こんな泣けるアルバムが忘れ去られているのはもったいないと、“名盤探検隊”シリーズを立ち上げたワーナーにお願いして、99年、彼女の2枚のアルバムを再発ラインアップに加えてもらったこともあった。最近、その2枚が米ライノ・ハンドメイドからリマスター&ボーナス追加という形で新たに再発されたりもした。けっして派手にではないが、ここ数年、彼女への注目度が静かに高まっているような気がしてはいた。
が、いきなり未発表の3枚目の音源が登場するとは。歌詞に関してはまだ味わいきれていないのだが、メロディもアレンジも見事。アサイラム時代の2作では曲によってオーケストラにまで膨れあがっていたバッキング・アンサンブルだったが、その辺を再度見直したのか、あるいは予算的な問題からか、ここではぐっとシンプルなコンボ・バンドによる簡潔でポップなバッキングが聞かれる。もちろん、彼女の奥深い才能はここでもきっちり発揮されているので問題なし。正式なトラックダウンも行われていないまま埋もれていた制作途上の音源だったが、彼女の大ファンだというジム・オルークが今回マルチ・テープからミックスをほどこしている。分厚いブックレットもファン必携。Pヴァインから国内配給もされるそうだ。が、ジュディ・シル未体験の方は、できれば前の2枚を聞いてから、本盤に接してもらいたい気も……。
いや、まあ、そんな堅いこと言わず、できるだけ多くの人にジュディ・シル体験をしてもらいたいというのが本音ではあります。前の2作、ライノ・ハンドメイドの盤も含め、けっこう入手しづらくなっているようだし。今回ボーナス収録されているライヴ映像も泣けますよ。大学のキャンパスで、けっこう劣悪な環境のもと、しかし素晴らしい弾き語りを聞かせるジュディ・シル。こんな映像に出会える日が来るとは夢にも思わなかった。