ザ・グレイト・ディヴァイド/ウィリー・ネルソン
ウィリー・ネルソンという人の揺るぎなさには、いつも心がふるえる。誰と、何を、どんなふうにやろうと、すべてウィリー・ネルソンになっちゃう。ウィリー・ネルソンが共演して名唱を残したパートナー群といえば、ぱっと思い出すだけでも、ビーチ・ボーイズ、ダグ・サーム、ニール・ヤング、ボブ・ディラン、ベック、ジョニー・キャッシュ、レオン・ラッセル、スーパーサッカーズ、フラーコ・ヒメネス、フリオ・イグレシアス、B・B・キング、カール・パーキンス、ジョニ・ミッチェル、クリス・クリストオファーソン…ああ、止まらない。
これ、たとえばセリーヌ・ディオン的な、ああいういわゆる“デュエット上手”みたいなのはまるで違って。けっして何度もテイクを重ねているわけではなさそうなのに、少ないチャンスに一気に自らのワン・アンド・オンリーな“味”を全放出するみたいな。でもって決定的な世界観を作り上げてしまうみたいな。それも軽々と。別に舞台が自分のアルバムであろうとなかろうと、あまり関係なくて。
その辺の魅力はレイ・チャールズに近いかな。まあ、ウィリー・ネルソンの魅力を一から語り出したら一週間飲まず食わずでしゃべり続けて餓死しちゃう気がするので、テキトーにしときますが。そんなウィリー・ネルソンの新作です。今回もいろいろなアーティストたちと興味深いコラボレーションをたくさん聞かせている。参加したデュエット・パートナーは、リー・アン・ウーマック、キッド・ロック、シェリル・クロウ、ブライアン・マクナイト、ボニー・レイット。もちろん、かつて「クレイジー」とか「ハロー・ウォールズ」とか「ファニー・ハウ・タイム・スリップス・アウェイ」とか強力な名曲を数多く生み出してきたウィリー・ネルソンだけに、今回もいくつか魅力的な新曲を書き下ろしているけれど、それ以上に多くの新曲を提供しているのがマッチボックス・トウェンティのロブ・トーマス。バーニー・トーピンも何曲か歌詞を書いている。シンディ・ローパーでおなじみ「タイム・アフター・タイム」やミッキー・ニューベリーの「ジャスト・ドロップト・イン」のカヴァーもあり。面白い顔合わせが随所に展開されているわけだ。
で、内容は、やっぱりいいです。渋い。しみる。マッチボックス・トウェンティのプロデュースでおなじみ、マット・サーレティックをプロデューサーに迎えて、アコースティックではあるけれど、カントリーではない、よりアダルト・コンテンポラリーなロック・サウンドのもとで、例の独特のウィリー節を炸裂させている。デュエットの中では、特に女性陣との3曲が泣ける。楽曲的にはロブ・トーマス作のオープニング・チューン「マリア」ってのが、古今の様々な音楽要素が魅力的に交錯する素敵な仕上がりだ。
さっきも書いたように、もともとカントリー・ポップ系の優れたソングライターとしても才能を発揮し続けてきたウィリー・ネルソンだけれど。今回のように、ほとんどの楽曲を他人にまかせたとしても自らの個性が何ひとつ揺るがないわけで。偉大なパフォーマーというのはこういうものなのだろう。この人、まだまだ衰えませんね。むしろストーリーテラーとしてはこれからさらに深くなっていくのだろう。
そうそう。男女デュエットといえば、去年の秋に出たリンゼイ・パガーノ(15歳とかだっけ?)のアルバムに入っていた「ソー・バッド」ね。ポール・マッカートニー作の名曲。あの曲のリメイク版でリンゼイちゃんとポールおぢさん自らとが聞かせてくれたアンプラグド系デュエットも泣けたな。