ラヴ・アンド・セフト/ボブ・ディラン
ずいぶんと長いこと更新しないでいるうちに。
いろいろ起こりましたねぇ。同時多発テロがあって、ブライアン来日延期のもろもろの対応にあたふたしているうちに、今度はジャイアンツのミラクル・アゲインに向けての今さらながらの快進撃が一瞬始まって、ぼくもファンとしてちょっとだけその気になって、9月27日の対カープ戦の11対10の惜敗戦まで神宮とドームに通いまくって、そしたら長嶋の衝撃の退任発表があって、とてつもないショックの中で退任セレモニーも行なわれた30日の東京ドームで涙しながら今年のドーム納めをして、と思ったら志ん朝師匠が亡くなって、否応なく時代の変わり目を思い知らされて、こうなったら野球だけでも楽しもう、早いとこ優勝決めて日本シリーズへと興味を高めてくれとばかり、スワローズを応援しながら連中の試合をテレビやラジオで見て、いつまでたっても勝たねーなぁ、アップアップだなぁ、ムサンバニみたいだなぁ…とイライラしたりして、で、ようやくスワローズの優勝が決まって、あー、これで一安心、来期に向けて長嶋なきプロ野球に対してどのように関わっていこうか、同好の志とともに語り合おうかなと思っていたら、今度はいきなり空爆が始まって…。
そんなこんなでひと月が過ぎました。その間、ブライアン・ウィルソンの延期公演の日程も出たし、世の中はちゃんと動いていたんだけどね。ぼくは仕事の分も含めてあまり文章とか書く気にもなれず、ぼんやり過ごしちゃいました。レビューしたい新譜がなかったわけじゃない。というか、けっこうたくさんいいアルバムがあったな。ホーン・セクションをバンド内に常設した新生ヒューイ・ルイス&ザ・ニュースの久々の新作も連中のロードハウス・バンド的な持ち味が炸裂する痛快な仕上がりだったし、ウェイン・ハンコックの新作もごきげんだったし、ダン・ベアード率いるヤッフーズのアルバムも出たし、ギリアン・ウェルチの新作も素晴らしかったし、そのギリアン・ウェルチをはじめ、ビリー・ジョー・ロイヤル、アリソン・ムーラー、ジェイ・ベネットらが参加したフィル・リーのアルバムもあったし、アメリカン・ノスタルジアびんびんのマーク・オコナーの新作もまたまたソニー・クラシカルから出たし、アリソン・クラウスの新作も良かったし、アル・クーパーの未発表曲集も興味深いものだったし、案外ボズ・スキャッグスの新作も聞かせるものだったし、コナン・オブライエン・ショーにも出てきたニック・ロウの新作ってもあったし…。
もったいないから、全部ジャケットだけでも載せておきましょうか(笑)。
ただ、そんな中、このひと月、いちばんよく聞いたのがボブ・ディランの新作だった。これはいいわ。聞けば聞くほどぐっとくる。チマタでは、ディランが軽い気分でポップな1枚を作った…みたいな言われ方をしているようだけど。もっと深いと思うよ、これ。ぼくはかなり盛り上がった。
今年2月に行なわれた感動的な日本公演も含む“ネヴァー・エンディング・ツアー”で、新しいアメリカの神話を歌い継ぐ伝承歌手としての使命を全うせんとする強い意志を表明し続けるディランさん。今年で60歳。デビュー40周年。なのにいまだノリノリだ。立ち止まらない。長く果てしないツアーの中で鉄壁のコンビネーションを磨き上げてきたバック・バンドの連中とともに5月にスタジオ入り。傑作との誉れ高き前作『タイム・アウト・オヴ・マインド』から4年ぶりの新作を作り上げてくれた。なんと通算43枚目。かつて70年代にディランと素晴らしい共演を聞かせた故ダグ・サームの盟友、オーギー・メイヤーズをゲストに迎え、素晴らしいルーツ・ロックンロール・アルバムに仕上げている。
前作ではダニエル・ラノワにまかせていたプロデュースワークも、本作ではディラン自身が手がけた。前作でもディランはブルース、ゴスペル、賛美歌、ロカビリーなど、様々なアメリカン・ルーツ音楽のフォーマットに取り組んでおり、それをラノワが彼特有の深遠かつオルタナティヴなエコー感をともなった音像で包み込んでいたわけだが。今回はそうした表層的な装飾さえいっさいなし。時代感とか、そういうちまちましたものに配慮することなく、ルーツ音楽を知り抜いたベテランならではの率直さで、とにかく痛快なまでにまっすぐ、ロックンロール、ブルース、カントリー、ブルーグラス、フォーク、ウェスタン・スウィング、ジャズなどへ寄り道なしのアプローチを展開している。
相変わらず、けっこう豪球ど真ん中系のパクリというか、メロディの借用とか、そういうのも多いのだけれど、そんな持ち味も含めてディラン。ラヴの気持ちでセフトする、と。愛と窃盗/剽窃。愛情をもってパクる、と(笑)。それですよ。それこそがフォーク。それこそがトラディショナル。
これぞ男のアルバムだと思う。かっこいい。