
ノーバディーズ・ガール/アマンダ・シャイアズ
本ブログでも前ソロ・アルバム『テイク・イット・ライク・ア・マン』とか、故ボビー・ネルソンを生前、しっかりサポートしてみせた連名アルバム『ラヴィング・ユー』とかを紹介したことがあるアマンダ・シャイアズ。
いろいろとぎくしゃくした後、今年の3月にジェイソン・イズベルとの離婚が成立。11年の結婚生活の終わりを迎えたアマンダさんが、悩み、傷つき、怒り、抗い、当惑し、絶望し、自分を責め、でも最後にはひとりで乗り越えていくその過程を綴った、なかなかに痛切な1枚だ。
本作についてご本人は、“挫折と、沈黙と、再起と。その後に生まれたのが『ノーバディーズ・ガール』。永遠に続くと信じていた日々が終焉を迎えて、誰も救いに来てくれないと気づいたとき、どう立ち向かっていけばいいのかについての物語です”みたいなことを語っていて。傷ついた後、自らのアイデンティティの輪郭をいかに取り戻せばいいのか、というテーマを聞き手と共有する、ある種の転機を記録したアルバムという感じ。
ローレンス・ロスマンのプロデュースの下、ナッシュヴィルとロサンゼルスでレコーディング。アマンダさんが自らフィドル、テナー・ギター、ウクレレなどをプレイして、それをロスマン(ギター)、ザック・セッチフィールド(ギター)、ピーター・レヴィン(キーボード)、ドミニク・デイヴィス(ベース)、フレッド・エルトリンガム(ドラム)、ジュリアン・ドリオ(ドラム)らが抑制の効いたプレイでサポートしてみせる。いい感じの余白を活かしたアンサンブルが素晴らしい。音の隙間にアマンダさんの内省がイマジネイティヴに漂っている感じ。
短いイントロダクション的なインスト曲に引き続き、リード・シングルとなった「ア・ウェイ・イット・ゴーズ」へ。そこで冒頭、アマンダさんは“彼が私の元をどんなふうに去って行ったか教えてあげる…”といきなり歌い出す。以降、過去と現在を行き来しながら、記憶の断片、フラッシュバック、将来への希求を交錯させた歌詞が紡がれていって。
「ザ・ディテールズ」って曲じゃ、彼が私との結婚を利用してお金儲けしていた…的なことまで告白していたりして。うわっ…とか思うけれど。かつての悩みや今も続く痛みを包み隠すことなく、淡々と、率直に歌い綴るそのさまにはぐっと惹きつけられる。
その元夫ジェイソン・イズベルやブランディ・カーライルとのコラボが目立っていたこともあって、どうしてもアメリカーナの文脈のみで語られがちではあるものの、確かにそうした音楽性を基調としつつ、ジャズを含め、より幅広い要素も巧みに取り込みながら、従来の音楽フィールドからの脱却をきっちり視野に入れた仕上がりです。