
バッキンガム・ニックス/バッキンガム・ニックス
初ストリーミングだとか。しかも、オフィシャルなデジタル・リイシューは今回が初。確かに10年くらい前、韓ビッグ・ピンク・レコードがボーナスをどっさり詰め込んでCD化再発したことがあったけれど、あれは半ブートってことか。今回は米ライノ・レコードからのオフィシャル・リイシュー。オリジナル・アナログ・マスターに最新リマスターを施して、オリジナル通りの全10曲での復刻だ。
今回、ボーナスはないけど、7分超の「フローズン・ラヴ」で終わるこの形のほうがやっぱり落ち着く。CDだけでなくLPも出るので、そっちで接し直すのも悪くないかも。定評あるライノ・ハイ・フィデリティ盤もあるし、カラー・ヴァイナルもあるし。うれしい。
スティーヴィーと一緒じゃなきゃ俺はマックのメンバーにならないよ…と、当時リンジーがゴネたってくらいで。この時期はいいパートナーだったのに、今ではスティーヴィーが“もう二度と顔も見たくない”って言うほどモメてるみたいだし、リンジーも身体こわしちゃってるし。二人がモメまくっていることも本作がちゃんと再発されなかった大きな原因なのかな。
何はともあれ、いい音で再発が実現してよかった。
このLP、1973年のオリジナル・リリース時にはまったくスルーしていて。存在すら知らなかったものです。ぼくが本作を初めて手に入れたのは、リンジー・バッキンガムとスティーヴィー・ニックスの二人がもうフリートウッド・マックに加入して『ファンタスティック・マック(Fleetwood Mac)』とか『『噂(Rumours)』を大ヒットさせた後、爆発したマック人気に便乗する形でポリドールから日本盤が出たときだった。1977年かな。たぶん日本の洋楽ファンの多くがそんな流れで本作に接したのではないかと思うのだけれど。
ぼくの場合、1968年から69年にかけて、ピーター・グリーンがリーダーシップを担っていたブルース・ロック期のマックがいちばん好きで。中学生だったころ、すごく影響を受けたもんで。ボブ・ウェルチ在籍期を経て、1975年、『ファンタスティック・マック』を聞いたとき、あー、マックはついにこんなことになっちゃったのか、と。ちょっと複雑な気分になったっけ。
まあ、そうは言っても、マイケル・マクドナルド加入後の新生ドゥービー・ブラザーズも嫌いじゃない…ってのと同様、そんな新生マック・サウンドも別物として好きだったし、混乱期を乗り越えた大ヒット劇を喜んでもいた。で、マックをそんなふうに大きく変質させた存在としてのリンジーとスティーヴィーに大いに興味を惹かれて、彼らがデュオとして残した唯一のアルバムである本作にも手を出したのでした。懐かしい。半世紀近く前の話だな、これ。
1970年代ローレル・キャニオンならではというか、フラワー・ジェネレーションの残り香と、神秘主義と、乾いたナッシュヴィル志向とが渾然と共存する1枚。ワディ・ワクテルとか、ジム・ケルトナーとか、ロニー・タット&ジェリー・シェフとか、参加ミュージシャンも興味深いけど。
やっぱ、一度耳にしたら絶対に忘れられないスティーヴィーのヴォーカル、インスト曲でアコギ、エレキ、両方を駆使しながらで持ち前の緻密な切り口を披露するリンジーのギター、そして二人の優れたソングライティングが素晴らしい。まだ未熟な面もそれなりに見受けられるとはいえ、マックでのアルバム以上に彼らの本質のようなものが発揮されている感じで。その瑞々しさが改めて沁みます。
オープニングの「クライング・イン・ザ・ナイト」とか、マックでも再演した「クリスタル」とか、後に「何が貴女を(What Makes You Think You're The One)」へと発展する「ウィズアウト・ア・レッグ・トゥ・スタンド・オン」とか、よく聞いたなー。いいよなー。
