
ミスター・ラック&ミズ・ドゥーム/ザ・デラインズ
小説家として何冊も著書を出版しているウィリー・ヴローティンがすべてのソングライティングとギターを務めるオレゴン州ポートランドのバンド、ザ・デラインズ。本ブログでは2022年のサード・アルバム『ザ・シー・ドリフト』を紹介したことがあったけれど。
2023年にヴローティンの新作小説『ザ・ナイト・オールウェイズ・カムズ』のサウンドトラック・アルバムを本に同梱したり、レコード・ストア・デイにそのアナログをリリースしたりして。で、いよいよ新作の登場。今回も全曲、彼らならではの洗練されたカントリー・ソウル・サウンドに乗せて優れた短編小説を読んでいるかのような物語が舞う充実の1枚に仕上がってます。
ヴローティンの他、ヴォーカルのエイミー・ブーン、ドラムのショーン・オールダム、ベースのフレディ・トゥルヒオ、キーボード/トランペットのコリー・グレイ…というのが現在のデラインズのラインアップらしい。『ザ・シー・ドリフト』にも参加していたペダル・スティールのタッカー・ジャクソンの名前もクレジットされている。ファースト・アルバムからの付き合いになるジョン・モーガン・アスキューのプロデュースの下、ワシントン州ヴァンクーヴァーのボッチェ・スタジオでレコーディングされた。
オープニングを飾る表題曲は、4年の刑期をつとめあげたミスター・ラックと、憂鬱な日々を過ごすメイドさん、ミズ・ドゥームが偶然出会う物語。続く「ハー・ポニーボーイ」は行く宛てなくアメリカを旅する向こう見ずなカップルの悲劇。「レフト・フック・ライク・フレイジャー」は悲しみを抱えた男に恋した女性が、しかしジョー・フレイジャーの左フックのような痛烈なショックに見舞われるお話。「シッティング・オン・ザ・カーブ」では、裏切られた女性が自分たちが暮らした家を燃やす。
と、こんな具合にアルバムは進んでいく。他にも、マリファナで3年の刑を受けたロレインさんが、刑期を終えてマリファナが合法化された社会に戻ってくる様子を綴る「ドント・ミス・ユア・バス、ロレイン」とかも、なんだかじわじわ沁みる。「ナンシー&ザ・ペンサコーラ・ピンプ」は16歳のころから自分を支配してきたポン引きに復讐する物語。「モーリーンズ・ゴーン・ミッシング」は麻薬密売組織から金を奪ったモーリーンの逃走劇が描かれる。
ランディ・ニューマンやトム・ウェイツのソングライティングから大きな影響を受けているというヴローティンならではの世界を、エイミー・ブーンさんが淡々と歌い綴っていく。バンド全体として素晴らしいストーリーテラーとしての役割を全うしている感じ。
「ゼアズ・ナッシング・ダウン・ザ・ハイウェイ」で歌われている“ハイウェイには何もないの/ただ暗闇が横たわっているだけ/私は知ってるわ…”というフレーズとか、しびれます。もっとじっくり歌詞も噛みしめたいな。国内盤とか、訳詞付きで出てくれないかなぁ。