NBPファイル vol.119:追悼ルー・ドナルドソン
ぼく自身、もう60歳代後半で。そういう世代だから仕方ないのだけれど。多感な時期に接して大いに影響を受けたり憧れたりしてきた素晴らしい表現者たちの訃報が頻繁に飛び込んでくるようになって。まあ、旅の終わり、みたいな? なんだかんだ、そうしたことも意識せざるを得ない日々ではあります。
谷川俊太郎さんとか、ずっとそこにいてくれるような気がしていたんだけど…。淋しいとか、残念とか、もうそういう感じでもないものの、淡々と、こう、いろいろ思い巡らしますな。そして訃報がまたひとつ。ジャズ・アルト・サックス奏者、ルー・ドナルドソン。
1926年11月1日、米ノース・カロライナ生まれ。1950年代からチャーリー・パーカー直系のハード・バッパーとして数々の名演を残してきたリジェンドだ。90歳代を迎えたのを機に2017年、引退を宣言したものの、2021年、95歳の誕生日を祝うトリビュート・コンサートに姿を見せたのを皮切りに、96歳、97歳…と毎年の誕生日に催されたトリビュート・ショーに出演して元気なところを見せてくれていたのだけれど。
今年は肺炎にかかってしまったこともあり、98歳の誕生日ショーに出席できず。その後間もなく、11月9日、フロリダの病院で亡くなった。享年98。
ぼくが初めて買ったこの人のレコードは、1967年録音の『アリゲーター・ブガルー』。ブルーノート・レコードからリリースされてはいたけれど、表題曲はジャズというよりファンキーなR&Bインストというか。ごっきげんにグルーヴィーな1曲で。シングルとしてもヒットしていて。
いや、もちろんこの曲が出た当時ぼくはまだ小学生だから、リアルタイムで買ったわけではないけれど。ただ、そのころ日本でもハプニングス・フォーとかホワイト・キックスとか、いくつかのGSが日本語詞をつけて歌っていたから、なんとなく曲は覚えていた。その後、1970年代半ば、大学生時代にカット盤で手に入れた覚えがある。で、ルー・ドナルドソンというプレイヤーに興味を抱き、旧譜にも少しずつ手を出すようになって。
そしたら、もちろん「アリゲーター・ブガルー」以降のソウル・ジャズ路線もかっこいいのだけれど、むしろそれ以前、ハード・バップというか、伝統的なビ・バップの美学を貫いたっぽい時期のプレイもすでにファンキーで、ソウルフルで、ブルージーで、むちゃくちゃすごかったことがわかってきて。初期、ミルト・ジャクソンやらアート・ブレイキーやらホレス・シルヴァーの下でばりばり吹きまくっていたころのプレイもイカしていて。
しかも、1957年録音のアルバム『スイング・アンド・ソウル』からはピアノ・トリオ+コンガ(レイ・バレット!)なんて変則編成を従えてワン・ホーンでのびのび独特のグルーヴを追求していて。その柔軟な姿勢と豊かでどこまでも明るい歌心にぼくは思いきりハマってしまったのでした。その時期の代表的名演「ブルース・ウォーク」とか、初めて聞いたときぶっとんだっけ。で、発売順とは逆にオリジナル・アルバムを次々さかのぼりながら聞きまくったものです。懐かしい。
というわけで、スロウバック・サーズデイ恒例NBPプレイリスト。今週はそんな、ぼくにとっても音楽の幅を広げてくれた恩人のひとりであるルーさんの訃報を受けての追悼セレクションです。『アリゲーター・ブガルー』とかで大当たりをとる以前、ハード・バッパーとしてまっすぐ輝いていた活動初期、1952〜1960年に録音された音源集。いわゆるブルーノート1500番台のオリジナル・アルバム群から他人名義のものも含めて1枚1曲ずつ選んで、録音年順に並べてみました。
自作曲でも、スタンダード系の歌もののカヴァーでも、独自の伸びやかな音色でテーマ・メロディをストレートに吹くだけで最強の歌心を聞き手に届けてくれるルー・ドナルドソンの魅力を改めて味わいつつ、その功績に思いを馳せましょう。
忘れられない名演は無数にあります。ありがとう。どうぞ安らかに。
Lou Takes Off - RIP Lou Donaldson
- Down Home / Lou Donaldson(1957年リリース『Lou Donaldson Quartet/Quintet/Sextet』より。1952年録音)
- Cookin' / Clifford Brown(1956年リリース『Clifford Brown Memorial Album』より。1953年録音)
- If I Had You / Art Blakey(1956年リリース『A Night At Birdland Volume 2』より。1954年録音)
- That Good Old Feeling / Lou Donaldson(1957年リリース『Wailing With Lou』より。同年録音)
- I'm Gettin' Sentimental Over You / Jimmy Smith(1957年リリース『A Date With Jimmy Smith Volume Two』より。同年録音)
- Peck Time / Lou Donaldson(1957年リリース『Swing and Soul』より。同年録音)
- Groovin' High / Lou Donaldson(1958年リリース『Lou Takes Off』より。1957年録音)
- Blues Walk / Lou Donaldson(1958年リリース『Blues Walk』より。同年録音)
- Hog Maw / Lou Donaldson(1961年リリース『Light-Foot』より。1958年録音)
- Blue Moon / Lou Donaldson & The 3 Sounds(1959年リリース『LD+3』より。同年録音)
- Be My Love / Lou Donaldson(1960年リリース『The Time Is Right』より。1959年録音)
- The Truth / Lou Donaldson(1960年リリース『Sunny Side Up』より。同年録音)