リヴィング・イン・ザ・マテリアル・ワールド:50周年記念盤(デラックス・エディション)/ジョージ・ハリスン
1973年はビートルズ関連の盛り上がりがけっこうあった年で。もちろんバンドそのものは解散してしまっていたのだけれど、赤盤、青盤が出て。再結成の噂もじわじわ流れて。メンバー4人もそれぞれいろいろと活発。楽しかった覚えがある。
アルバムで言うと、ポールは『レッド・ローズ・スピードウェイ』から『バンド・オン・ザ・ラン』の時期。シングル「007/死ぬのは奴らだ(Live and Let Die)」や「愛しのヘレン(Helen Wheels)」のヒットもあった。リンゴは曲によってジョン、ポール、ジョージもそれぞれ参加したアルバム『リンゴ』で大当たり。ジョンは『ヌートピア宣言(Mind Games)』をリリース。ヨーコと別れて例の“失われた週末”に突入…。
で、ジョージは『リヴィング・イン・ザ・マテリアル・ワールド』。1970年の『オール・シングス・マスト・パス』、1971年の『バングラデシュ・コンサート』に続く新作アルバムをリリースした年だった。ある意味、ビートルズ解散当初、それまで重しのように乗っかかっていたジョンとポールの“圧”から解き放たれたか、思いきり才能を開花させながらシーンを賑わしていたジョージの新作だけに、リリースを心待ちにしていたものだ。
当時はフィル・スペクターがプロデュースを手がけた『オール・シングス…』や『バングラデシュ・コンサート』の壮大な音像をジョージの新たなトレードマークのように感じていたこともあって、そうした音像と決別した感じの、セルフ・プロデュースによるぐっとコンパクトな音像にちょっとだけ戸惑ったっけ。けど、まあ、考えてみればこっちのほうが普通なわけで(笑)。
ジム・ケルトナー、ジム・ゴードン、クラウス・フォアマン、ニッキー・ホプキンス、ゲイリー・ライトら頼れる腕ききを従えたタイトなバンド・サウンドのかっこよさにだんだんハマっていった。ヒンズー教的な精神性がより強まった感じの歌詞世界には微妙な思いもあったけれど、「ギヴ・ミー・ラヴ」とか「ザ・ライト・ザット・ハッド・ライテッド・ザ・ワールド」とか、のちにハリー・ニルソンもカヴァーした「ザット・イズ・オール」とか、なんとか幅広い価値観でとらえることもできそうな曲の深みは沁みました。アルバム・チャートでの『レッド・ローズ…』との首位争いとかも懐かしい。
と、そんな『リヴィング・イン・ザ・マテリアル・ワールド』のリリース50周年を1年遅れで祝うデラックス・エディション、出ました。世界5000セット限定という2CD+2LP+7インチ・シングル+Blu-rayの“スーパー・デラックス・エディション”もあるようですが。他にも、2CDあるいは2LPによるデラックス・エディション、1CDあるいは1LPの通常盤、カラー・ヴァイナル、デジタル・リリースなどがあって。
われわれ庶民としては、ここは普通に2CDあるいは2LPですかね。ディスク1はポール・ヒックスが最新リミックスをほどこしたオリジナル・アルバム。ディスク2は未発表の別ヴァージョン群に、シングル「ギヴ・ミー・ラヴ」のB面に収められていたアルバム未収録曲「ミス・オーデル」の新リミックス、そしてリンゴへの提供曲「サンシャイン・ライフ・フォー・ミー」のジョージ・ヴァージョンも。これにはリンゴ版同様、ザ・バンドのロビー・ロバートソン、レヴォン・ヘルム、ガース・ハドソン、リック・ダンコらも参加しています。
ちなみに、そのインスト版ってのもあるのだけれど、それはスーパー・デラックス・エディションの7インチ・シングルB面のみに収録されているみたい。スーパー・デラックス・エディションのBlu-rayには全曲のドルビー・アトモス・ミックスも入っているようだし。テープ・ボックスの写真、手書きの歌詞、メモラビリア、制作ノート、ライナーなど満載の60ページのハードカヴァー・ブックレットも付いているみたいだし。こっちにも心惹かれるところ。うー…。
またマニアの間で賛否が渦巻きそうなポール・ヒックスの新リミックス、個人的には好意的に接することができました。ダニーくんとオリヴィアさんの監修の下、オリジナル・テープから完全リミックス。くすんだ感じが晴れて、印象が明るくなったかも。ただ、オリジナル・ミックスは今回、スーパー・デラックス・エディションにもいっさい入っていないので、オリジナル・アナログ盤はもちろん、これまでの再発盤CDたちも処分できないっすね。
さらに言えば、2006年の再発時には今回も収められた「ミス・オーデル」だけでなく、シングル「バングラデシュ」のB面だった「ディープ・ブルー」もボーナス追加されていたし。東京ドームでのライヴ映像などを含むDVDも付いていたし。2014年の再発では、「ディープ・ブルー」「ミス・オーデル」に加えて「バングラデシュ」のシングル・ヴァージョンもボーナス収録されていた。コレクション、増える一方。減らせません。