パターンズ・イン・リピート/ローラ・マーリング
ブリット・アワードやグラミー賞の常連という感じ? 英国のシンガー・ソングライター、ローラ・マーリング。彼女が2020年、前作にあたるアルバム『ソングズ・フォー・アワー・ドーター』をリリースしたとき、この“ドーター”はイメージとしての“娘”だったわけだけど。
その後、ローラさん、実際に母親になり、生まれたばかりの赤ちゃんのお世話をしながら自宅のリヴィングルームやロンドンのバート・ヤンシュ・スタジオなどで少しずつ少しずつレコーディングを続けて。ようやく完成したのが本作、彼女にとって8作目のアルバム『パターンズ・イン・リピート』だ。これまではイーサン・ジョンズやブレイク・ミルズがプロデュースを手がけていたけれど、今回はビッグ・シーフなどでおなじみのドム・モンクスが共同プロデュース。
デモの宅録みたいなやり方で制作された1枚だけれど、それが奏功していて。なんともアコースティカルな、じわじわ心に沁みる仕上がり。自宅で録っているだけに、もちろんドラムレスで。基本的にアコースティック・ギターだけによる簡素なバッキングでつぶやくように歌うローラさんを、美しいストリングス・アンサンブルやコーラスがさりげなく彩る。特にストリングスがよくて。編曲はyMusicのロブ・ムース。米ブルックリンでダビングされている。
アルバムを通してのテーマは、親と子の、複雑だけれども祝福すべき関係性。ローラが両親に捧げた「ユア・ガール」なんて曲もあれば、アルバム冒頭、まずは愛娘の無邪気な声に導かれてスタートする、ずばり「チャイルド・オヴ・マイン」なんて曲も。「ララバイ」って曲はタイトルからもろ想像できる通り、愛娘に向けて“眠りなさい、私の天使/私の腕の中で安全に…”と歌いかけ続ける穏やかな子守歌。アルバム・タイトルと連動する「パターンズ」と「パターンズ・イン・リピート」は巡る人生のサイクルを静かに賛美する曲たちだ。
かと思えば、「キャロライン」って曲ではタイトルになっているキャロラインって女性と、どうなんだろ、よくわからないけど道ならぬ恋とかしていたのかな、とにかくそういう女性となんだか複雑な別れの局面を迎えつつ、うろ覚えの思い出の曲を脳裏にぐるぐるさせながら、かつて愛していた妻と子供にも思いを馳せる男の胸の内が綴られていたり。切り口いろいろ。「ルッキング・バック」はなんとローラさんのお父さん、チャールズ・マーリングが書いた曲を元に、ローラが完成させたものだとか。50年くらい前、お父さんが20代だったころに書かれたものとのことだけれど、曲自体は人生を振り返る老人の思いが綴られていて。この親にしてこの娘…って感じなのかも。
素晴らしい1枚です。